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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
588/677

アマガエル

 その日、たまたま営業車で自宅近くを通った。すると買い物帰りだろう武士が、ご機嫌な足取りで歩いているのを見かけたのだ。

 しかし今の私は就業中である。よって、声をかけずにスルーすることを決めたのだが……。


 突然、ぴたりと武士が足を止めた。そのまま嬉しげな表情で足元を見下ろし、視線を少しずつ横にずらしていく。そして最終的に側溝で目を留め、しゃがんで中を覗き込み始めた。

 カエルでもいたのだろうか。だとしたら微笑ましい光景である。そこにいたのがジャージを着た成人男性の武士じゃなければ。

 自転車で通りがかったおじさんが、無邪気に側溝を覗き込む武士を見て「うおっ」と言っていた。もう少し様子を見ていたかったがそこまでだった。信号が青に変わったので、私は車を発進させた。


 帰宅後。


「今日は実にいい日であったぞ!」


 晩ごはん中、えびちりをたらふく食べながら満面の笑みで武士がのたまう。ふふ……そうだろうよ。当ててやろうか、武士。お前は今日、ちょっといいものを見つけたんじゃないか?


「ぬぬっ、お見事! 大家殿、千里眼の持ち主であったか!?」


 ま、お前との付き合いも長いからね……これぐらいの推測は朝飯前ってもんよ。

 で、何見つけたの?


「アマガエルである」


 ああ、かわいいよね。


「青きアマガエル」


 ?

 ああ、緑を青って言う昔ながらの人?


「否、そのカエルは空のように青かったのだ」


 マジで? 見間違いとか別の種類のカエルとかじゃなくて?


「某もそう思ったからこそ、後を追ってみたのだ。しかしどこからどう見ても青きカエルであったぞ」


 えー? じゃあ別の種類だよ、それ。ちょっと調べてみようか。

 ……。

 え、マジで実在すんの?

 え、10万匹に1匹の確率!?

 え、幸運を呼び込む!!?

 おいおいおい、武士! 今から行ってとっ捕まえてこい!!


「ならぬ。かの者は自然に生まれし者だ。ならば自然で生きるべきである」


 そんで宝くじ買って帰るぞ!!


「捕らえる前提で話が進んでおるー。待たれよ、大家殿。かように欲深くては幸も逃げてしまうぞ。それに……」


 それに?


「10万匹に1匹など些細なこと。ここにおる某は、数多生まれし人のうちのたった一人であるぞ」


 でもお前幸運呼び込まないじゃん。


「某との日々が幸であろう?」


 自分で言うんだ……。

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