社内報
会社とは一匹の巨大な生き物だと感じる時がある。社員はその生き物の手となり足となり血となって、忙しなく駆け回り日々命を紡いでいくのだ。
だから、一見無意味に思えるこれにも相応の意義がある。そうに違いない。
でないとやってられねぇ。
「おお大家殿、珍しいな。帰りてのちにまだ労働を続けているとは」
残念ながらコレ労働じゃねぇんだ。なぜなら給料が出ないから。
「ぬ、そうなのか?」
そう、今の私は、社内報作成のために自宅にて作業をしていた。
社内報――社員の数名がインタビューに答え、社長が今後の抱負を語り、営業成績のよかった部署を褒め称える冊子。もしかするとこれ、今どき珍しくなってしまった慣習じゃないか? はよ廃れろ。
悪態をつく私だが、武士は何やら興味深げに近寄ってきた。
「ふぅむふむ、なれば瓦版を作っておるというわけか。面白そうではないか」
お? じゃあ変わってくれよ。私はもう苦痛で今にも倒れそうだからさ。
「某が作ってよいのか?」
よいよー。むしろやってみてくれよ。
ここにある写真と取材文は好きに使ってくれていいからさ。素材は「いらすとや」でよろしく。
「うむ! では大家殿はしばし休んでおるがいいぞ!」
そうさせてもらうわ。はー、ありがたいもんだね。今のうちにカルピス飲もう。氷とか入れて。ちょっと濃い目で。
台所に立ちながら、武士の作業を横目で眺める。武士は真剣な眼差しでパソコンと向き合っていた。
「刮目せよ、これぞお屋形様より賜った感状……と」
待て待て待て待てお待ちなすって。
「なんぞ、大家殿」
なんぞじゃないよ。お前今、何の項目作ってたの?
「お屋形様による書状を取り上げようとしておったが」
お屋形様ってなんだよ。
「それが某にも読み方がわからんでな。やしろのおさ? なる者であるからして、お屋形様と呼ぶべきではないかと推し量ったのだが」
やしろのおさ……やしろのおさ……。
あ、社長か! なるほど! それ読み方はシャチョーです!
「あなや、そうであったか。ならばとく直すとしよう」
うんうん、頼むわ。
「刮目せよ、これぞ社長様より賜った感状……」
ごめん、やっぱだめかもしんない。見出しがあまりにも武士だわ。




