お紅茶
ほうじ茶が好きだ。
温めて飲むとほんのり甘くておいしい気がする。だからたまに心の余裕がある時は、お湯を沸かしてほうじ茶を作って飲んだりする(普段は麦茶を雑に大量生産し冷やしている)。
しかし、今日に限っては違う。会社の人から紅茶を分けてもらったのだ。
正真正銘のティータイムである。私は優雅なひと時を演出すべく、朝からホットケーキを焼き紅茶を用意していたのだが……。
「ただいま某が鍛錬から帰ったぞぉーっ! 早速手洗いうがいを……なんと! 大家殿、それは甘きふわふわ焼き菓子ではないか! ありがたくいただくぞ! しかしその前に茶で喉を潤しヌワーーーーーッ!!!!??」
……走り込みから帰ってきた武士が、怒涛の勢いで紅茶に口をつけ、もんどりを打った。急過ぎて止めることもできなかった。
「これはなんぞ、大家殿!? 知らぬ茶だ! いかような草を摘んで煎じたのだ!?」
その辺の草むしって入れてねぇんだよ。それは紅茶っていうれっきとした西洋のお茶。日本のお茶とはまた違った香りの豊かさを楽しんでくれ。
「コウチャ……」
いいから手洗いうがい! あとシャワー!
「ぬんっ!」
武士は大人しく体を清めに行った。しばらくして戻ってくると、私がカップに入れた紅茶に鼻を近づけスンスンと嗅いでいた。
「珍妙な香りがする」
慣れるといいもんだよ。つか調べたら江戸時代の人も飲んでたっぽいね。外国の人と関われるような人に限るけど。
「ほう」
つまり今、お前は将軍様に献上されるようなお茶を飲んでるってことだ。
「!!!?????」
めちゃくちゃ驚きおる。
「なっ、のっ、ほっ、そっ、某は、なんという畏れ多きものを目の前に……!!」
今更過ぎない? それを言ったらお前が毎日ダラダラやってるソシャゲなんか、将軍様見たことも聞いたこともないよ。
「謹んで頂戴いたす!」
すっかりかしこまっちゃった……。
お、一口飲んだ。飲む前に何回か回したな。茶道の礼儀だろ、それ。
「……」
改めて聞くけど、お味はいかが?
「結構なお手前で」
お前最初その辺の草っつってたよな?




