焼きそば
武士が料理を覚えた、なんて言うもんだから、
そんなら晩飯は頼もうかな、とか返しちゃって、
まあ当然腹を空かせて帰るわけじゃん。
まさかカップ焼きそばとは思わないじゃん。
「見ろ! こうしてお湯を捨てるのだぞ!」
シンクに熱湯を流してベコン! と音を鳴らしながら、意気揚々と武士は言う。
知ってる。それ独身男性生活者の基本のキだよ。
「ぬあぁ! 火薬がぁ!」
しかも失敗してんじゃねぇか。
火薬の小袋を入れっぱなしで三分置いたな、アイツ。
「……では、こちらは其のものにするとして……」
しかし案外律儀なヤツである。
それをシレッと私にソイツをよこそうものなら、二度とオムライスを作ってやらない所だった。命拾いしたな、武士よ。
そして武士は二つ目のカップ焼きそばを手に取る。そのままお湯を捨てようと傾けて――。
「あ」
あ。
「……」
……。
ぶちまけた。
シンクに、焼きそばを。
「……」
こっち見んな。
「……“そおす”は味が濃ゆいから、分からぬと思うのだ」
そう言うなり、武士はシンクに落ちた焼きそばを掴んで容器に戻す。ソースをかけ、箸でぐりぐりと混ぜた。
一瞬の沈黙。
ヤツは、シレッとカップ焼きそばを私に突きつけてきた。
「できたぞ」
歯ァ食いしばれ武士。
うん、でも、勿体ないよね。シンクも綺麗にしてたしさ。
以上の理由で、落ちた焼きそばは武士に押し付け返したものの、それらちゃんと全て腹の中におさめた我々なのだった。