運動会
「力試しが開かれておるそうである」
そう武士が言った。
力試し……?
「腕自慢と呼ぶべきかもしれん」
そんな血気盛んなイベントがこの平和な街で行われてるの? 聞いたことないんだけど。
「とく行くべし」
まあいいよ。面白そうだし。
二つ返事で請け負い、向かった先で行われていたのは――
小学校の運動会だった。
力試しっちゃ力試しだけどさー!
「ぬおおおお! 見るがよい、大家殿! 某の友人たちが走っておるぞ!!」
そういえばお前の友達小学生だったね。よっしゃ、応援しよう! 声の限り!
小学生とはいえ、六年生ぐらいになるとほんと大きいな。迫力もすごい。そういえば、昔小学校低学年だった頃に間近で見た六年生の100メートル走はおっかなかったなぁ。
「ゆけー! みちる殿! 走り抜くのだ!!」
武士は声を張り上げタオルを振り回して応援している。フェスか?
そして種目は移る……。
「ぬ、あれはなんだ? 皆が集まり組み上がり始めたぞ」
騎馬戦だね。三人が馬になって、その上に乗る一人が他の騎馬と帽子を奪い合うんだ。
「なんと……! 某らの精神が根付いておるではないか!」
そうかな……そうかも……。
「東軍! 西軍! 両者気張るがよい! 数が互角ならば気概が勝負を分けるぞ!!」
あ、武士の周囲にいる人たちがざわめき始めた。そうだよね。ガチで武士っぽいのが応援してるんだもんね。なんかのデモンストレーションかと思うよね。
残念ながら何もかもガチである。よろしくお願いします。
「ぬ、おおおおおお!! なんという凄まじい攻防だ! かようなもののふあらば、将軍様も安泰であろう!」
いねぇんだ、将軍は……。
「ところで総大将はどの者であるか?」
いないんじゃないかな?
「?」
「?」じゃないよ。これ運動会だよ。そこまでがっつり戦はしないよ。
「否、この熱気はもはや戦と呼んで差し支えないだろう」
確かに。思わず手に汗握るね。
「ぬあ! 大家殿、次は大人による綱引きであるぞ! 自由に参加していいそうだ! 某、行ってくる!」
武士が楽しそうで何よりなのである。




