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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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へろへろ疲労

 その日の私は散々で、疲弊しきった体を引きずるようにして帰宅した。

 しかし、社会人ともなればこんな日はさほど珍しくない。ゆえに武士も心得たもので……。


「ぬう、大家殿。本日はあの日か?」


 どの日だぁ?


 だが今日はツッコミを入れる気力すらないのだ。私は牛乳を飲もうと冷蔵庫を開けた。

 瞬間、どさどさとタッパーが頭に落ちてきた。静止する私。ちなみに牛乳はなかった。


 ……ああ……。


 もうだめだ……。


「ぬんっ!? どうした、大家殿!」


 冷蔵庫の前でぱたりと倒れた私のもとに武士が駆け寄ってきた。ちょうど風呂に入ろうとしていたのだろう。じゃなきゃ全裸であることに説明がつかない。


「しっかりしろ、大家殿! 目を開けるのだ!」


 今目を開けたら見たくないもんまで見えるので……。


「現実のことか!?」


 現実も見たくないなぁ。


「ならば目をつぶったままでよい、大家殿。おぬしがまた目を開けて前に進もうという気に満ちるまで、某が大家殿の手を握ってしんぜようぞ」


 やだ……何そのセリフかっこいい。全裸じゃなきゃ完璧だったよ。


「某の肉体のどこに瑕疵が?」


 筋肉美に文句つけてるんじゃないんだよ。いいから風呂入ってこいって言ってんの。


「しかし、倒れた大家殿を置いていくわけにはいかん」


 別にいいよ、ここ自宅だし。

 はあ、今日はいいことないなぁ。


「ならば今から作ればよい」


 作るぅ? たとえば何?


「そうだな……」


 武士は私を跨いで冷蔵庫を探り始めた。おい、眺め最悪なんだけど。


「あった。べーる」


 武士が取り出したのはキリンラガービールの350ml缶だった。

 両手に一本ずつ。つまりこいつも飲む気である。


「つまみは任せたぞ!」


 嫌だよ! 今日は何かを生み出せる気分じゃねぇよ!


 そういうわけで、余り物とお菓子を適当に酒のつまみとしながら、夕食としたのである。

 ……〝いつも〟に戻ってくると、不思議とイライラがなくなっているものなのだなぁ。

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