へろへろ疲労
その日の私は散々で、疲弊しきった体を引きずるようにして帰宅した。
しかし、社会人ともなればこんな日はさほど珍しくない。ゆえに武士も心得たもので……。
「ぬう、大家殿。本日はあの日か?」
どの日だぁ?
だが今日はツッコミを入れる気力すらないのだ。私は牛乳を飲もうと冷蔵庫を開けた。
瞬間、どさどさとタッパーが頭に落ちてきた。静止する私。ちなみに牛乳はなかった。
……ああ……。
もうだめだ……。
「ぬんっ!? どうした、大家殿!」
冷蔵庫の前でぱたりと倒れた私のもとに武士が駆け寄ってきた。ちょうど風呂に入ろうとしていたのだろう。じゃなきゃ全裸であることに説明がつかない。
「しっかりしろ、大家殿! 目を開けるのだ!」
今目を開けたら見たくないもんまで見えるので……。
「現実のことか!?」
現実も見たくないなぁ。
「ならば目をつぶったままでよい、大家殿。おぬしがまた目を開けて前に進もうという気に満ちるまで、某が大家殿の手を握ってしんぜようぞ」
やだ……何そのセリフかっこいい。全裸じゃなきゃ完璧だったよ。
「某の肉体のどこに瑕疵が?」
筋肉美に文句つけてるんじゃないんだよ。いいから風呂入ってこいって言ってんの。
「しかし、倒れた大家殿を置いていくわけにはいかん」
別にいいよ、ここ自宅だし。
はあ、今日はいいことないなぁ。
「ならば今から作ればよい」
作るぅ? たとえば何?
「そうだな……」
武士は私を跨いで冷蔵庫を探り始めた。おい、眺め最悪なんだけど。
「あった。べーる」
武士が取り出したのはキリンラガービールの350ml缶だった。
両手に一本ずつ。つまりこいつも飲む気である。
「つまみは任せたぞ!」
嫌だよ! 今日は何かを生み出せる気分じゃねぇよ!
そういうわけで、余り物とお菓子を適当に酒のつまみとしながら、夕食としたのである。
……〝いつも〟に戻ってくると、不思議とイライラがなくなっているものなのだなぁ。




