えんぴつ
久しぶりに大学時代の友人と話す機会があった。数年ぶりに対面したのだけど、意外と変わっていなくて驚いたものである。だけど家庭を持ったり家を建てたり……などという話を聞いていると、やはりあの頃とは違うのだなぁと実感せざるをえなかった。
その際に聞かれたのだ。「お前んち、こどもいる?」と。
……つい、出来心で。本当に出来心で、「それっぽい感じのはいるかな~?」なんて返してしまったのである。馬鹿野郎、我が子を〝それっぽい感じの〟呼ばわりする親がいるか。疑問形で終わるな。この言い方していいの、ライブで観客席に呼びかける歌手だけだろ。
当然、〝それっぽい感じの〟とは武士のことである。せんでいい匂わせをしてしまった。
だがそれを聞いた友人は疑う素振りすらなく、私にこう言ったのだ。
「そっか、そんならもらってほしいものがあるんだ。うちこどもがいなくてさー、よかったらもらってよ」
……そういうわけで、今うちに大量の鉛筆があるのです。
「ほう、えんぴつ! かようなる画が描かれたものもあるのか!」
武士はためつすがめつ鉛筆を眺めている。そう、友人からもらった鉛筆は、いわゆる柄つき鉛筆……しかもバトルエンピツだったのだ!!
大体20年ぐらい前のものだと思ってもらっていいです。
しかし友人は気に入った鉛筆を使わず大事にする人だったので、今日武士の手に渡るまで大切にしまわれていたというわけだ。
……そんな大事なものを武士に渡してしまってよいのか?
「おお、そのようなものなのか。ならば心を込めて使わんといかんな」
本当にね。お、これ初代ピカチュウの鉛筆じゃん。うわ、非売品って書いてる。マジか。うちにくれるよりメルカリとかで売ったほうがよかったんじゃ……。
「早速お礼の手紙を書かねばならんな! まずは頂戴したえんぴつを削り」
ああ~~~~初代ゼニガメが削られていく! あっ! いいの!? モッタイナイの気持ちが私を襲う!
「これらえんぴつは字を書くために生まれたのである。本望であろうぞ」
それはそうだけど!!
ああ~~~~!!!! ゼニガメ~~~~~!!!!
このあと友人には、私にはこどもがいない旨と、しかし鉛筆は大喜びで使われているという事実を伝えました。友人は「あの鉛筆を使ってくれる人なら誰でも嬉しい」と笑っていましたが、使っているのが武士だという点は最後まで信じてくれませんでした。