生きている実感
書くことないな……ハムスターについて書いてもいいんだけど、今はまだ接触禁止期間中なのでそんなたいそれたことは書けない。そうそう、早速回し車を使ってくれたよ! 嬉しかったです。
しゃあない。こういうときには〝お題〟を求めよう。えーと、お題……ランダム……。
出た! じゃん! 〝生きている実感〟!!
……。
…………。
………………。
「どうした、大家殿。雪隠に間に合わなかったような顔をして」
何も漏らしてねぇわ。
時に武士よ。お前、どういう時に生きている実感が湧く?
「ぬ?」
武士は不思議そうな顔をしたあと、大きく深呼吸をした。そして胸に手を当て、すぐにでも国歌斉唱しそうな凛々しい目をしたあと……。
「今」
そう言った。そうだな、息しているの自覚できたもんな……。
「いかなる意図ありし問いぞ」
そんなふうに聞かれるとちょっと答えにくいな。えーとね、たとえば仕事終わりにキンキンに冷えたビールを飲んで、「あ~! 生きてる~!」って思うあの感覚? そういうのをお前はいつ感じるのかなって。
「つまり生命の躍動を感じる時とな。難しい問いであるが、うむ……」
武士は少し考えたあと、おもむろに両手を床についた。そしてゆっくりと両足を持ち上げると、そのまま静止する。おお、逆立ちだ!
だが私が褒めようとした瞬間、ハムスターが巣箱から出てくる音がした。思わずそちらに目を向けようとする武士。崩れる体幹。倒れてくる筋肉の塊を避けようとするも、テーブルの足に引っかかる私の体。迫る武士のケツ。真っ暗になる視界。
ものの三秒で現代美術顔負けのユニークな構図ができあがったところで、武士が呟いた。
「少なくとも今ではないな」
そっかそっか。
じゃあ、どいてくれ。今私の目前にお前のケツと死が迫ってるんだ。




