引き続き万年筆
引き続き、万年筆の話です。
「なるほど、某は今得心した」
私が作業を続けるのを見ていた武士が、ぽんと手を打った。
「それで大家殿は、よくぱちんこで万年床の絵を見ておったのだな」
ぱちんこじゃなくてパソコン、万年床じゃなくて万年筆な。ちょっとずつ間違って、まるきり違う描写にするな。
でもまあそうだよ。いい万年筆がほしくてインターネットで探してたんだ。
「良いのは見つかったか?」
うん、いくつか目星はつけたよ。
たとえばほらこれ。透き通った藍色に細かいラメが散らばってるの。
「おお……まるで夏の夜空のごとき美しさである」
そうだろ。そんでこっちは、鮮やかな緑が綺麗な万年筆。
「うむ、初夏の若葉を思わせるな」
とまあこのように素敵な万年筆はいくつか見つけたんだけど、ひとつ悩みがあってさ。
「ほう。その悩みとは?」
万年筆に文字を彫ることができるんだけどさ、何を書こうか迷ってるんだよね。
「ふむ。名を彫ればよいのではないか?」
まあそれが普通だな。でも私、自分の名前がそんなに好きじゃないんだよね。
「ぬぬう、ならば他の案を出すべきだな」
頼む。
「では某の名を彫るがいい」
いや……。
いや……それは……ちょっと……。
「ちょっと良き案?」
嫌だな……。
「嫌か……。なんと身勝手な」
そんなことないだろ。順当に生じる素直な気持ちだろ。
「ならば大家殿にとって特別な言葉を彫るべきであろう。何かないか?」
特別な言葉か。うーん……。
「友……愛……一生……不滅……」
在りし日の暴走族みたいな万年筆できちゃう。
「まあ急ぐものでもなかろう。ゆっくり考えるといい」
そうするか。
「明日までに決まらんかったら、某の名にするがいい」
全然猶予ないじゃん。お前の名前彫るぐらいなら友愛一生不滅って彫るわ。