万年筆の話
「ぬぬ、まこと面妖なる筆にて候」
私がちょっとした書きものをしていると、武士が後ろから覗き込んできた。武士の顔が真横にある。アッパーカットが決まりやすそうな位置だ。
「大家殿、此はなんぞ」
万年筆だよ。毛細血管現象を利用してインクが出てくるペン。
「もうさ……もさもさ?」
筆はもさもさだが、万年筆はもさもさじゃないな。
「某も使ってみたい」
だめだ。万年筆ってのは、力を抜いてサラサラ書くもんなの。お前筆圧バカ強ぇじゃん。ペン先弾け飛ぶわ。
「さらさら書くよう気をつけるゆえ」
まことに〜? ほなちょっとだけ貸してやるよ。ほれ。
「さらさらさらさらさら」
筆圧バカ高っ!!!! 口だけじゃねぇか!!!!
「のう大家殿、いくら押しても色がつかんぞ」
そらそうだよ! お前ペン先ひっくり返して使ってんだから!!
ああもう返してくれ。ほら、万年筆ってのは尖ってるほうを上にして使わなきゃいけないの。わかった?
「かようなことは事前に聞いておらんかったが」
教えようとした矢先、サラサラほざきながら勝手に書き始めたアホがいたんだなぁ。
「困った輩がいたものである」
わかってるならよろしい。あーあー、危ねぇー。万年筆ダメになるとこだったわ。
「やわな筆であるのう」
やっぱ最初の段階でコイツにアッパーカット決めておくべきだったな。