服を買いに行く
服の一枚や二枚とはいうが、その気になればいくらでも金を注ぎ込めてしまうのがこのジャンルである。ふらっと寄った服屋で手に取ったTシャツがゆうに一万円を超えていて、慌ててその場を離れたのも一度や二度じゃない。
いや、ハレの日用にいい服を買うのはいいんだよ。でも武士がお求めの代物はそういったものではない。そうだろ?
「うむ。某がどろんこになっても大家殿の怒声が飛んでこぬ着物がよい」
その年でどろんこになれる機会を設けられるものなの? まあいいか。とにかく、〝動きやすい〟、〝じゃんじゃん洗える〟、〝穴が空きにくい〟といった点で探していけばいいだろう。
……ワークマン一択か?
「うむ、そこであれば某好みの着物が見つかるに違いない」
よっしゃ、そんじゃ行ってみっか。
電車に乗って、ワークマンを目指す。しかしその道中、私は見つけてしまったのだ。
古着屋を……。
「……」
……。
「大家殿……歩みが止まったが」
……。
「大家殿、どこへ行く大家殿! そちらにぱくぱくわんわんはおらんぞ!」
ワークマンな。せめてもうちょい覚える努力をしようか。
古着屋に入ると、独特な匂いが我々を出迎えた。雑多な服が、所狭しと通路や棚を覆い尽くしている。武士は渋々ついてきたようだったが、すぐに目を輝かせて周囲を見回した。
「これは……服の墓場か!?」
めっそうもないわ。まだ着ることができるから売られてるんだよ。もしかして、江戸時代は新品の服屋しかなかったとか?
「否、右を見ても左を見ても古着屋しかなかった」
じゃあ馴染み深いだろうがよ。ほら、行って見てきな。
「ぬぬん、ぬぬん」
謎の鳴き声を発しながら、武士は服の海へと飛び込んだ。選定にはしばらくかかるだろう。その間、私もざっと自分の服を見て……。
「大家殿、これなんぞはどうだ!?」
早ーーーい。なんだ? まさか適当に目についた服を持ってきたんじゃないだろな?
などと言いながら振り返る。そこにいたのは――。
脚幅が太くゆったりした、デニムのバギーズボン。それに合わせるは、アメカジのTシャツだ。意外にも、そこはかとなくおしゃれで似合っている。
だがちょんまげだ。言い逃れできないほどにちょんまげだ。
「某の、あいでんていていゆえ」
アイデンティティ……今度は惜しかったな。
いや、よく似合ってるよ。それにするの?
「うむ」
よっしゃ、いいよ。値段見せて。
はっ!? ズボン4万円でシャツ2万円!? 占めて6万円!!???
「否。首飾りもあるがゆえ、10万円であるな」
なんっっっで4万円もするネックレス持ってきてんだよ!! 解散解散! 予算は上下で1万円前後です!
「首飾りは?」
思い入れにもよるので要相談!!!!