丁寧な暮らしを
朝――小鳥のさえずりと共に目を覚ます。青空はどこまでも澄み渡り、五月の風が私の頬を撫でた。
ベッドから起き上がり、ゆっくりと伸びをする。うん、今日もやっていけそうだ。
ベランダに出しているアデニウムに挨拶をする。土の乾き具合を見て、水をやるかどうか決めるのだ。今日はまだいらないかな?
朝食は昨日作っておいたスコーンにしよう。買っておいたジャムを使うのが楽しみだ。牛乳を温めている間に準備をしていると、そっとお皿を差し出してくれた手があった。
武士だ。
「おはよう子猫ちゃん。昨夜はよく眠れたかい?」
ウワーーーーーーッ!!!!!(絶望)
ひでぇ悪夢に飛び起きた。なんで? 途中まであんなに素敵な感じだったじゃん。どうしていきなり劇物を混ぜてきたの?
「なにごとかー!?」
ここで私の悲鳴を聞きつけた武士が、横滑りしながら部屋に飛び込んできた。が、残念ながら我が家に横滑りできるほどのスペースはないため、武士は壁に足をぶつけて悶絶することになった。なんだこの部屋。アホしかいないのか?
「何が起こったのだ」
なんでもないよ。丁寧な暮らしを夢見てただけ。
「丁寧な暮らしをしているとかような声をあげるのか?」
あげるよ。
「息をするように嘘をつくではないか」
つまり私にはキラキラ丁寧な暮らしは向いてないってことだよ。
「どんな夢を見たのかとんとわからんが、否である。大家殿はきっと丁寧な暮らしができる」
お。というと?
「まず、朝起き上がる際には横向きになり、両腕をしっかり使って体を起こす」
ふんふん。
「そして物を取るためにかがむ折には、腰を曲げるのではなく、膝を曲げて体を近づけるのだ」
おお、これはちょっと慣れるまで膝にきそうだな。
「また、包丁を使う際には腰が曲がりやすくなるものだ。あえてへそを前の台に押し付けると、腰への負担が少なくて済むぞ」
はー、なるほどな。ってこれ……。
腰に丁寧な暮らしやないかい!
「ぬはは」
あっ、叫んだら腰痛い! くそっ、加齢!




