小さな守り神
「ぬ」
ベランダに出ていた武士が、何やら見つけたようだ。ぬーぬー言いながらベランダで身をかがめている。どうしたのだろう。すね毛をかき分け美しい花が咲いたかな?
「大家殿、今体の調子は良いか? 良いのであれば、見てほしいものがあるのだ」
なんだなんだ。こっちまで持ってこれるようなものなら見てもいいよ。
「ならば連れてまいろう」
連れて……? 何、もしかして動物とか虫? だめだめ、そんなもん連れてきちゃ。対応できる体力があるときならまだしも、風邪引いてる今はちょっと。
「さして問題はないだろう。赤子の蜘蛛であるがゆえ」
赤子の蜘蛛……?
私が眉をひそめて返事を保留している間に、武士は植木鉢を片手に部屋へと戻ってきた。植木鉢には例のアデニウムがある。
「ほれ、ここだ」
武士が指差す先に目を凝らす。そこにいたのは、大きさ1ミリ程度の半透明の蜘蛛。か細い糸で編まれた小さな巣にちょこんと乗っかっている。
「どうだ、まことに愛いであろう」
……私は蜘蛛がそれほど得意ではない。何なら黄色と黒のしましまの蜘蛛は、見るだけで震え上がってしまうほどだ。
それでもこの蜘蛛はなんというか、健気で愛らしく思えたのである。やはりなんでも赤ちゃんはかわいいものなのだろうか。
「うむ、赤子は愛らしい。しかもこの蜘蛛はどうやらあで……あで……木助に害をなす虫を食べてくれるそうだ」
アデニウムに名前がついた。へえ、そうなんだ。まあ蜘蛛は益虫って言われるもんね。
じゃあしばらくはそのアデニウムにゆりかごになってもらおうか。
「うむ、それがよかろう。よかったな、蜘蛛吉」
名前がついた。
「あとは水やりの際にもろとも流してしまわぬよう気をつけねばな」
お前ナイアガラの滝もかくやってぐらい勢いよく水あげるもんな。




