富士登山
今も昔も、富士山は日本人の憧れと信奉の的である。ただ高いだけではなく、他の山の追随を許さない唯一の円錐形の山体の優雅さは、見る者を圧倒し魅了する。
もちろん、武士も例外ではない。
「富士山に登りたい」
軽々しく言ってくれおるわねぇ!
無理とは言わないけど、思い立って登れるものじゃないと思うよ。私登山の経験ないから知らんけど。
「であろうな。ならば富士塚ならどうだ?」
富士塚? なにそれ。
「その名のとおり富士山を模した塚である。これに登れば、富士山に登ったのと同じご利益が得られるのだ」
へー、そんなんがあるんだ。
「うむ、富士山に登るのは容易ではないからな。その上、女人は入山することすらあたわん。しかし、老人や女人とはいえ富士山のご利益は賜りたいものだろう。そこで生まれたのがこの富士塚と聞く」
お、調べたら出てきた。へー、近かったら全然行ってみても……。
おい、都内100カ所余りにあるって書いてあるんだけど! こんなあんの!?
「富士山への憧れ尽きることなし」
これほどの数が今でも残ってるなんてすごいなぁ。大事にされてきたんだろうね。
それじゃ早速行ってみる?
「そうしよう。しかし……」
どうした?
「銀之丞たちも参拝してよいだろうか」
シルバニアファミリーたちにも富士参りさせようとしてる?
えっと……ちょっとびっくりされるかもしれないな。
「やはりそうか。そうなると……」
武士はおもむろに粘土を取り出した。こねこねしたあと、そっと床に置く。まるで小さな山だ。
「富士塚」
簡易すぎるだろ。
「大家殿も登るがよい」
おい、人差し指と中指でとことこするな。さすがにこれは富士塚にカウントされねぇだろ。
……。
いいか。富士山の懐は日本一でかいだろうし。
「うむ!」
こうして本日、私と武士と銀之丞たちは富士登山を達成したのであった。