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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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忘れた頃に

 その事件は風呂場で起きた。


 いつものようにシャワーを浴び、体を拭く。そういや最近体重測定から遠ざかっていたなと思い出し、体重計を取り出したのだ。


 次の瞬間、黒く小さい影が視界の隅をよぎった。


 イニシャルG――!!(※ゴキブリのこと)


 間違いない。あの速度、あのサイズ、あの動き。Gだ。私はすかさず殺虫剤を取り出し、黒い影が消えたと思しき場所に吹きかけた。

 きっかり2秒! Gはおろか他の虫ですらこの攻撃には耐えられないだろう。私は勝利を確信し、暗がりを確かめた。


 そこに転がっていたのは、真っ黒なネジだった。


 そして私は思い出したのだ……。



 ~数年前・回想~



「んぬおおおおっ!! おおっ!? おおおおおおん!!!!」


 風呂場から武士の雄叫びが聞こえた。何が起こったのかと慌てて脱衣所に繋がるドアを開けると、全裸の武士が角に向かって殺虫剤を吹きかけていた。

 どうした!? まさか、Gが出たのか!?


「うむ……! しかし某の武士たる機転により、見事退治と相成ったのである!」


 人類の英知である殺虫剤を片手に言われてもな!

 でもやっつけてくれてありがとよ。それじゃ死骸を回収するか。

 ……あれ?


「お?」


 なあ武士、これ、ネジじゃね?

 黒いネジ。


「……」


 ……んふ。

 ンフフフフフフフフwwwwwww


「大家殿、それを貸すがよい」


 んひっひひひひひひwwwwww え、何? ネジいる? はい。

 どうすんの、それ。


「そうだな……元あった場所に仕込んでおこうと思う」


 なぜ。


「いつか芽吹き、大家殿に牙を剥かんがために……」


 どういう意味だよ。無意味だろ。

 あ、もうどこに行ったかわかんなくなった。バカお前アレ何のネジだったんだよ。大事な何かのネジだったらどうするんだよ。



 ~回想終了~



 ……。


「大家殿、どうした? 何やら悲鳴のあとにシューッと音がしたが」


 なんでもないよ。あっち行ってな。


 そうして私は何食わぬ顔で元あった場所にネジを戻したのである。いつか芽吹き、武士に牙を剥かんがために。

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