ある朝
「では、今日も鍛錬に行ってくる」
そう言い残すと、武士は颯爽と扉を開けて出ていった。元気なことである。あのバイタリティはぜひとも見習わねばならないだろう。
しかし、見習うとしても明日からだ。今日の私は骨の髄までのんびりすると決めている。この決定は誰にも覆せない。
ドアが開く音がした。
「手ぬぐい」
お、忘れ物か。どんまい。そういうこともあるよね。
「では行ってくる」
おう、いってらっしゃい。私はもう一眠りするとするよ。
あまり入眠が得意でない私だが、二度寝は別だ。得意と言っても過言ではない。多分これもよくないんだろうな。でも眠りのリズムなんて人それぞれだから……。
ドアが開く音がした。
「飲み物」
お、また忘れ物か。水分は大事だからね。暖かくなってきたし、熱中症も心配だ。
「では行ってくる」
おう、いってらっしゃい。さて、私はいよいよ二度寝を……。
ドアが開く音がした。
「ぼうし」
お、みたび忘れ物か。日差しも少しずつ強くなってきたからな。帽子を装着しておくに越したことはない。
「では行ってくる」
おう、いってらっしゃい。
ドアが開く音がした。
「むしとりあみ」
お、玄関の外に珍しい虫でもいたか? いいな、あとで見せてくれ。
「では行ってくる」
おういってらっしゃい。
ドアが開く音がした。
「むしかごぉ!!」
捕まえたのか……何の虫だった?
「たまむし!!!!」
まじかよ! 見せろ見せろ!!




