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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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【急募】自転車の乗り方

 初めて自転車に乗れた時のことをぼんやりと覚えている。

 広い運動場でおそるおそるペダルに足の力をこめ、漕ぎ出す。後ろで自転車を押さえてくれていたのは父だったろうか。よろよろと進む自転車をコントロールすべく、私はハンドルを痛いほど握りしめていた。そうしてかろうじて前に進んでいたのだ。

 しかしその時、後ろで私の自転車を押さえていたはずの父が私の隣を併走していることに気がついた。今の私の自転車は何の支えもないのだと気づいた私は、そのままゆっくりと横に倒れた。


「なるほど。この乗り物は動き続けなければ倒れるのか」


 自転車にまたがった武士は真剣な目で頷いた。


「承知。ならばとにかく車輪を回し続ければよかろう!」


 堂々とした宣言だ。なんと勇ましいことだろう。しかし体は正直なもので、既に武士の腰は引けていた。人ってサドルの上でもへっぴり腰になれるんだな。


「いざ! 尋常に勝負!」


 掛け声と共に、ちょん……と武士は地面を蹴った。しかしペダルにうまく足を乗せられず、空中で足をばたばたとさせている。


「お、お、お」


 一旦足をつこう! 一旦足をつこう!


「大家殿ーっ!!!!」


 情けない声に思わず武士のハンドルを握って支えようとする。しかし武士は重たかった。私の介助も虚しく、武士はそのままゆっくりと横に倒れた。

 デジャヴである。


「某には過ぎた乗り物よ……」


 早くも自信を失った武士が、自転車の下で力なく言う。

 大丈夫だよ。誰だってはじめはそんなもんだよ。


「今なら、この自転車なるものを乗り回す稚児たちに心からあっぱれと申せる」


 その気持ちはわかるなぁ。自動車学校通っている時の送迎バスの運転手さんとか輝いて見えたもんな。


「どら焼きが食べたい」


 早い早い早い。もうちょっと頑張ろうぜ。


 昔は自転車の乗り方なんて転んで学ぶなんて言われていたけど、今はどうなんだろうな。あとで動画とか見てみよう。

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