自転車!
ようやく春らしくなってきたかと思う今日この頃。でも多分一瞬で夏になるんだろうなとも思う今日この頃。
ちょっと外に出てみないか? 私はそう武士に呼びかけた。
「否」
断られた。なんでよ。絶対暇だろうがよ。
「某は多忙である。今、ハムの者を愛でておるのだ」
寝っ転がってXに上がってるハムスターの動画を眺めてるのは暇のうちに入るだろ。いいから外行こうぜ。
「否~」
転がりながら私の手を逃れている。これが江戸時代には帯刀を許されていた男の姿か?
よっしゃ、足首掴んだ。このまま玄関まで引きず……クソ重ぇ!!!! 筋肉の塊? もしくは石???
「ハムの者~」
往生際が悪い。歩け。お前の足は何のためについてるんだ。
「明日を目指すため」
しゃらくせぇ。
しかしさすがは成人男性。玄関まで到着した武士は、すんなり靴を履き始めた。
「して、何用であるか?」
うん、実はお前に見せたいものがあるんだ。
「なんぞ?」
まずアパートの下まで降りようね。んでもって……じゃん! こちら!!
「おおっ! これは……!」
「……削ぎ落とされた、えれきてる車……?」
自転車だよ!! つかお前、今まで道行く自転車のコト、自動車の削ぎ落とされた部分だと思ってたの!?
「これはどうしたのだ?」
うん、会社の人がもう使わないからって譲ってくれたんだ。で、いい機会だし武士にプレゼントしようと思って。
普通のママチャリだけど結構きれいじゃない? 大事に使えよ。
「おお! かたじけない……! 某、早速乗ってみてもよいか?」
ああ、乗れ! 存分に乗れ!
「では、いざ!!」
自転車に飛び乗る武士。勢いははなまる百点満点だ。しかし自転車に対してやるのは違うだろう。
武士は自転車を巻き添えにして派手にすっ転んだ。
「ぬう……!」
武士は悔しさと痛みに顔をしかめて空を見上げている。
「不良品か……?」
そんなわけねぇだろ。
こうして、武士の自転車特訓が始まったのである。