つちのっこ
そういや武士、つちのこって知ってる?
「以前大家殿が話してくれたように思う」
そうだっけ。まあいいや、改めて説明するとね。存在は噂されているけど確証はない伝説の生き物――いわゆるUMAのひとつだ。普通のヘビと違って胴体が太く膨れていてね、2メートルぐらい跳んだりするらしい。
「巨大なネズミを食うたヘビを見間違えたのではないか?」
そんなことない。同様の目撃証言もいっぱいある。
「あと、ヘビが苦手な者からすると、ちょっとヘビがこちらに頭をもたげただけで跳び上がったと勘違いするものだ。そして他の者に語る際につい盛ってしまい、気づけば5尺もヘビが跳んだと言い出すのが常」
なんでお前そんなに懐疑的なんだよ! かなり的を得てそうなのが尚更嫌!
「しかし、なぜ突然つちのこの話を持ち出してきたのだ」
ああ、実は見たんだよ……つちのこをな。
「なぬ!?」
夢で。
「今日の某の営業はしまいである」
傾聴の閉店ガラガラしないで!
いや、ちょっと面白い夢だったんだよ! 私は夢の中で森の中をさまよってるんだけどさ、前方でがさがさ音がするの。で、見てみたら、つちのこそのままのヘビが草むらから顔覗かせてたんだわ。
「ほう」
でも「つちのこじゃん!」と思ったのも束の間。突然辺り一帯が揺れたかと思うと、地響きを立ててつちのこの下の地面が盛り上がったんだよ。そこにいたのは、木を飲み込まんばかりの巨大な蛇。そう、つちのこの部分はこの大蛇の頭の部分だったんだ!
「ほうほう」
そして大蛇は口を開いた……。「私は山の化身。しかし私の頭の部分だけをピックアップされ、つちのことかいうなんだかショボい妖怪になっているのは酷く自尊心が傷つけられる」と。
「山の化身がぴっくあっぷという言葉を使うのか?」
そこは私の夢補正ってことで。
可哀想だなと思った私は慰めた。「つちのこには懸賞金がかけられているけど、山の化身にはかけられていないから大丈夫だよ」と。
「大家殿の慰めは時折要領を得ぬ」
そこで目が覚めた。
「某には詳しいことはわからぬが、大蛇殿の自尊心を傷つけて終わったに違いない」
そんなことない! むしろあれは夢のお告げ……正夢かもしれない。今から山に登ればまたあの大蛇に会えるのかも。そうと決まれば早速準備をして……
「大家殿」
はい。
「今から休日出勤だからといってつちのこに逃げるでない」
ふんぬぐぬぬぬぬぬぬぬ。




