花見
豆苗を買うと、育てる段階で武士が必ず舞を舞う。埃も舞うのでやめてほしい。
「この舞を踊れば、種にカビも生えずよく育つ気がする」
種に白いふわふわのカビが生えないのは、私とお前が水を適量替えているからです。踊りのおかげではありません。
まあなんでもいいや。武士、花見に行こうぜ。
「今は夜だが?」
昼は私が仕事じゃん。
「然り」
車乗れよ。ジュースも持っていこうぜ。
「酒は?」
私が運転で飲めないので却下。シラフで酔え。
「ぬぅん」
こうして、夜桜を見に行くことになった。
桜が咲けば、花見をせねばならないという焦燥感に駆られる。理由はわからない。もう一部の日本人のDNAに刷り込まれているんじゃないかとすら思う。
夜空に花びらが散るこの景色は、何度見ても幻想的で胸が踊るのだ。
「よい夜だ」
武士がオレンジジュースを片手に言う。
「大家殿と桜を見るのは何度目だろう。いずれ、江戸で見た桜の数よりも多くなるのだろうか」
そうかもな……。最近、マジでそうなるんじゃないかって思うわ。そろそろガチで戸籍取得に動くか。
まあ桜見ながら考えることじゃないか。ほら、コンビニの三色団子。
「ありがたい。ううむ……あらためて、これほど容易く甘味が手に入るとはな。この世界は恵まれておる」
それは私も思うよ。でも、そうやって思えるのも桜を美しいと感じられる心があってこそ……。違うか?
「某は関係ないと思うぞ」
だんご返せ。
「ならぬ。もう食べた」
しかも二本食いやがってコイツ。
「ほれほれ、大家殿は桜に夢中になっているがよい。某はおにぎりに移る」
もう食い気が先行してる。
「つなまよ」
江戸では食べられないものを求めてる。
「桜は江戸でも見られるからな」
そういう方向で桜がおにぎりに負けることってあるんだ。