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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
522/676

編み

 最近、心が震えることがない。


 いや、逆だ。ゲームだったり小説だったりでコンスタントに驚きや感動の体験をしているからこそ、何もない今が退屈に思えるのだ。裏返すと幸福なことでもある。武士が病気になって入院してる時は、こんなふうに思うこともなかったもんな。

 仕事中に心が震えることがないのもよくない。悪い意味では震えているんだけどね。受注した後に見積もりの計算金額ミスってた時とか……。


 あ、心が苦しくなってきた。


「新しいことを始めてみればよいのだ」


 そんなことをつらつら話していると、武士がそう言った。


「なんでもよい、学んでみるのだ。そこから見識が広がり、仲間が増えることもあろう。損はないぞ」


 そりゃそうだけど、変化を恐れる気持ちもあるんだよね。億劫っていうか。


「それは心が老いておるぞ、大家殿。体は老いても心は常に戸を開き、新たなる風が吹き込むよう構えておらねばならん。そうすることで、人はいつまでも若々しさを保てるのだ」


 よさげなこと言うね~。そういうお前はどうなの? 新しいこと始めてたりするの?


「最近、編み物を始めてみた」


 へえ、すげぇじゃん!! そういや最近流行ってるみたいだね。百均行ってもごっそり毛糸なくなってるもん。

 服とか編んだりするの?


「否、ねずみ」


 ねず……。

 ねずみ?


「うむ。ねずみを作っておる」


 あみぐるみってやつ?


「そうかもしれん。だがわからん。適当に編んでみたらいつのまにか芋ができあがっておったので、それにしっぽと耳を付け足してみたらねずみに近いものができあがった。ゆえに今は、よりねずみに近いものにすべく手を加えておる」


 あ、もしかしてこれ? 親指サイズの謎物体……。

 これネズミ!? 確かに編まれてはいるけど!!


「手をつけてみたら、もっと愛らしくなると思うのだが」


 手を加えるって比喩じゃなかったんだ。

 でも楽しそうだね、お前。そうだね、私も面倒くさがらずに新しいことに挑戦してみようかな……。


「ならばこちらの動画を参考にするがよい」


 お前が教えてくれるんじゃないんだ。

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