梅は咲いたか
「大家殿、梅の花が咲いておるぞ」
だいぶ暖かくなってきた朝。ベランダで洗濯物を干していた武士がこちらを振り返って言った。
梅の花? ……ああ、あの桃色の花か。
「桃ではない。梅である」
表現の話だよ。あの手の色になると桃色かピンクって呼ぶのが普通なの。
「梅色と言えばいい」
そういう色もあるのかもだけど、日常で使ったことないな……。
そもそも私、梅と桃の違いがわかんないんだよね。桜ならまあわかると思うんだけど。
「むむ、江戸に住んでおきながら情けない男だな」
今はここ江戸じゃねぇし……。
で、そういうお前は違いがわかるの?
「無論! 梅の花びらは丸く、また花枝がないため幹に直接花がくっついておるぞ」
へぇ。
「そして桃の花は、花びらの先が尖っておる。また、こちらには花枝があるので桜と見間違いそうになるな。しかし桜のほうがこの花枝がわさわさしておる」
なるほど。
……。
じゃああの花、桃じゃん。
「ぬ?」
ほら。双眼鏡貸してやるから見てみなよ。
「そーがんきょ……? なんぞこれはー!! まるで眼前に花があるかのようではないか!!」
ここに来て初体験。
いいからよく見てみなよ。あれ桃だろ? 花びらあるし花枝あるし。
「これは某の体が花のもとにあるのか? それとも花が某のもとに来ておるのか?」
だめだ、双眼鏡に夢中だ。
「そうか! 某の目玉だけ花のもとに移動しておるのだ!」
そんなわけないだろ! いいから花を確認しろ!!
※桃でした。




