パン
武士はカリカリに焼いた食パンにマーガリンといちごジャムを塗って食べるのが好きだ。好きだけど、放っておくと三枚でも四枚でも食べるので注意が必要だ。米を食べて稼いでくれ。
「逢魔時色のじゃむや夕焼け色のじゃむも食したが、やはりいちごが一番である」
逢魔時色……? あ、紫色とかだからブドウジャムかな。
夕焼け色……? 赤色じゃないなら橙色か。じゃあオレンジジャムかな。
わざとわかりにくく言ってるだろ、お前。
「もう一枚」
さすがにやめてくれ! 4枚切りの食パンの4枚目だぞ!? 家計が簡単に逼迫する!
とまあ今でこそこうして食パン大好き侍へと成長した武士だが、初めてパンを見たときはこうじゃなかった。初めて見る未知なる食べ物に、心の底からおっかなびっくりで……。
『……それにしても、よい匂いがするな。よい匂いのものはよい味と相場が決まっておる。うむ、馳走になるぞ(私の返事を聞く前に伸びる手)』
……いや、全然食べてたな。匂いを嗅いで全てを判断してたわ。きのこでそのパターンを実行するとあっさり死ぬから気をつけてほしい。
まあ、その時はある程度私への信頼もあったということだろう。
そんな武士に本日持ってきたのは、こちら。たこ焼きパン。
「たこ焼き……?」
4枚切り食パンへと伸ばそうとした手を止め、訝しげな目でこちらを見る。そう、たこ焼きパン。その名のとおりたこ焼きっぽい見た目で、実際味もたこ焼き。ソースがしみしみで中に入ったタコがおいしいパンよ。
「おいしいパンか……」
そうパン。
「……」
おそるおそるたこ焼きパンを見る武士である。しかし、突然カッと目を見開いた。
「うまそうな匂い。これはうまい味だ、間違いない」
いつもの武士論でパンを引っ掴むと、もぐもぐ食べ始めた。おいしかったのだろう。すぐに幸せな笑顔になった。
よかったよかった。それにしてもこいつ、昔から何も変わってないな。絶対野良きのこと出会わせちゃいけないわ。




