夜食
いや、私だってダメだと思うよ、基本は。
夜は寝るものだし、ご飯は決められた時間に一日三食が当たり前だ。
そもそも寝る前に食べるだなんて、胃腸を疲れさせてしまうに違いない。翌朝起きて「ああ疲れたな」なんてことになりかない、禁断の行為だと思う。
「――うむ、大家殿の言い分はよく分かった」
コタツテーブルの前で正座する武士は、深く頷いた。そして、ゆっくりとした動きで私を指差す。
「……ならば、その手に持ったお椀は一体何なのだ?」
指の先には、どんぶり。
中には、味が濃い目の煮込みうどん。
「うどん?」
そう、うどん。
――本日のお夜食です!!
「実になっとらん!! 今は夜の一時であるぞ!!」
だから腹が減ったんだろうがよ!! 晩飯食べたの七時だぜ!?
ドラクエって面白いからついつい時間忘れてやっちゃうよな!!
「まことにな。まさかあそこであんな展開になるとは……!」
おーっと話はそこまでだ、うどんが伸びてしまう。
ああ、お前はいいよ。私が食べたかっただけだから。そうだな、お前は私が食べてる内にレベル上げでもしてもらって……。
「いただきます!」
うむ、素直でよろしい。
そうして、二人でずるずるとうどんをすすった。
あー、ダメだよな、ほんとこれはダメだよ。しかしこの背徳感が最高だ。美味しい。
「卵までつけておるとは、大家殿は実にワルであるな……!」
そうだろう。半熟がいいんだよ、半熟が。
こう、煮込みながら途中で卵を落とすのがいいんだ。それが美味いんだ。
汁までしっかり飲み切り、満腹になった身を布団に横たえる。眠るには腹が満ちすぎた。これはもう少し時間を置かねばならない。
「大家殿、明日は其と鍛錬をするぞ! 鶏が鳴く前に起き、走り込んでうどんを帳消しにするのだ!」
同じくしっかり汁まで飲んだ武士は、そう息巻いていた。
うんうん。そうだなそうだな。
こうした背徳感から来る翌日への決意も、夜食ならではなのである。