時には流れる雲を
プツッと何かが切れて、何もできなくなる時がある。
こういう時は趣味も楽しくないし、本当に何もできない。SNSの文字をぼんやりと眺める妖怪になる。不毛だなとわかっていながら、SNSを追うだけでも何かやったような気持ちになれるのでやめられない。
そんなわけで転がっていると、武士にスマホを取り上げられた。
「不健康である!」
やめてよ、返してよ、私のエレキテル板!
くっ……スマホひとつ奪ったからっていい気になるなよ。こんなことで今の私を健康にできると思うな。
「どこの仇役の言葉だ。よいよい、無理して健康的なことをする必要はない。むしろこういう時こそ、何もしないのが肝要なのだ」
何もしない、ねぇ。意外と現代人には難しいよ。少しでも暇があると、すーぐスマホ取り出してポチポチやってんじゃん。
「それは大家殿のことであろう」
スマホには全てがある。
「少し離れるがよい。ほれ、ここのあたりなど陽が照って温まっているぞ」
そう言うと、武士はベランダに続く大きな窓の前に座り、ぽんぽんと隣を叩いた。布団をかぶったままでのそのそ移動する。とはいえ、狭い部屋なので数歩歩けばすぐ到着した。
座ってみれば、なるほど、じんわりと暖かい。じっとしているとぽかぽかと温まってくる。
「今日は少し雲が多いな、大家殿」
武士は、空を見ていた。高い位置にある雲も低い位置にある雲がゆっくりと行き交っている。そういやこうやって空を眺めるのも何年ぶりだろう。
雲は流れるままに形を変える。あれは大きなウサギに見えるな。あっちはワニだ。あ、ブルドーザーもある……。
「動物園の工事でもしておるのか?」
天国にも動物園があるといいよね。動物園という名の飼育動物の天国。
「うむ。極楽にある動物園は、さぞ大きな施設になるのであろうな」
見に行ってみたいねえ。ちゃんと天国行けるように正しく生きよう。
ところで武士は何が見えるよ?
「あのへんにまんじゅうが浮かんでおるな。あそこにも、ここにも……」
まんじゅうしかないまんじゅう天国? もしかして腹減ってる?
「今減ってきた」
雲見てお腹空くことあるんだ。想像力が貧困なのか豊かなのかわかんねぇな。




