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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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のびのび生きろ

 新しい部署に移動した同期社員の目が死んでいる。

 エナドリを真夏の麦茶のごとく飲み干し、最近は定時のことを〝ボーナスステージ〟と呼び始めた。普通はその時間に帰るんだよ。そう伝えると、「うちの会社、ちゃんと残業代が出るから全然ブラックじゃないよね」とか言い出して怖かった。もう若干会話が成立しなくなっている。

 近頃布団に入っても目も頭もギンギンに冴えていると言っていたので、心療内科を勧めておいた。あれ? ちょっと様子がおかしいかな? ぐらいのノリで気軽に行っていいんだよ。ただでさえ精神的なところって肉体的なところに比べて見えにくいんだからさ。


「働き過ぎで働けなくなるとは本末転倒であるな」


 そんな同期社員の話をすると、武士は芋けんぴをぽりぽりかじりなからそう感想を述べた。それはそうなのだが、今働いていないやつに言われると微笑ましさのあまり口元が緩んでしまうな。


「人間、生きるために生きるのだ。某とて、大家殿が働けぬ体になればすぐさま銭を稼いでくるぞ」


 ありがとよ。でも犯罪だけはやめてね。


「心配無用。某は大家殿に笑顔も運ばねばならぬ身ゆえ、さようなことはせぬ」


 すげぇかっこいいこと言ってる。無職ちょんまげの発言とは思えねぇ。

 でも、実際に渦中にいると自分の大変さを過小評価したりするんだよね。まだいける、まだ大丈夫、もっと大変な人はいるからってさ。


「魚は陸では泳げぬのにな」


 な。そんでも、自分にできないことを軽々こなしている人を見ると、自分は努力もできない怠け者だって思ったりすんだよ。実は人間社会で生きる以上、生産性って案外簡単に達成できるんだけどね。買い物をするとか、誰かを励ますとか、喜ばせるとか、家庭を維持するとか……。


「うむ。互いに助け合ったり誰かの活力の源になるのは重要なことだ」


 そうそう。だから同期社員も、このまま働き詰めである日ぷっつり折れて寝たきりになるより、時々ミスしてもいいから無理なく健康に働いてくれたらなと思うんだけど……。


「ああ。朗らか笑顔で人にも自分にも優しい日々を生きてほしい。この某のように……」


 お前一生心療内科いらなさそうだな。いいぞ、そのままのびのび生きてくれ。

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