甥っ子とピアノ
甥っ子との会話は続く。
「おれね、ピアノ弾けんの」
「てぃあも?」
ティアモなわけないだろ。イタリア語で「愛してる」だぞ。
「ピアノ知らん? これ」
そう言うと、甥っ子はiPadを取り出した。ピアノを模したアプリを開き、鍵盤に指を置く。器用に音を鳴らす甥っ子に、武士は目を丸くした。
「すごいではないか! なんっ……なんぞ、この面妖な琴は!」
琴じゃないよ。ピアノだよ。
「琴にしては形も音も鳴らし方も違う……! なんだ!?」
なんだじゃないよ。ピアノだっつってんだろ。
一方、驚く武士に甥っ子は得意満面だ。
「マジでピアノ知らんの!? おれ、うまいほうだよ。きいて。曲ひくから!」
お、すげぇじゃん。なになに? チューリップとか聴かせてくれんの?
……。
マジかよ。天国と地獄弾いてんじゃん……。
「めっちゃ練習した」
すげぇー。
な、武士。甥っ子すげぇね。
「さすが某が認めた才」
いつのまに後方腕組み師匠面ができる余裕取り戻したの?
いやでもマジですごいよ。小学生でそれ弾ける子いないんじゃない?
そう尋ねると、甥っ子は少し眉を曇らせた。
「そうでもない……。コンクールとか出たら、すごい人いっぱいいる……」
ああー……コンクールはね。ガチ勢が集う空間だもん。そりゃそうだ。
大丈夫大丈夫。おじさんはすごいって思ったよ。これからも楽しんで続けてよ。また聴かせてほしいな。
な! 武士もそう思うよな!
「よねつげんじを奏でたいのだが、どうすればよいのだ?」
早速教えを乞うとる! この武士、新しいものへの抵抗と若き才能への嫉妬がまるでない!!
そんで濁点の位置フルで間違ってんぞ!! 大好きなら覚えろ!!




