車の免許
武士が現代日本にやってきて数年が経った。さすがに情のひとつやふたつが湧くというもので、(私の機嫌と懐事情が良ければ)叶えられる範囲の願いなら叶えてやりたいと思うこともある。
おーい、武士。なんか願い事ない?
「車を運転してみたい」
む……
無免許ーーーーーーーっ!!!!
最初こそ車におののき恐れまくっていた武士であったが、元より好奇心旺盛な性格である。こんな日が来るのは想像に固くなかった。
「あの奇っ怪な自動籠を操ってみたい。某も車をぶんぶんいわせてみたい」
ウキウキしているところ申し訳ないが、それは無理なんだ。なぜならお前は無免許だから。
「むめんきょ……ああ、ちゃんとした医師のように免許状がいるのか?」
ちゃんとした医師のようにってなんだよ。免許持ってない医師がいるわけ?
「むしろ圧倒的に多い」
怖ぇな、江戸。
「して、車に乗るにもその免許状とやらが必要なのか。それは少々面倒だな」
鉄の塊を動かすわけだからね。操り方とか共通ルールとか学んでおかないと、無限に死人が出るんだよ。
「ううむ、それもそうか。ならば、某も免許状を取りに行くぞ」
それがなかなかハードル高いんだよな。教習所ってとこに通わないといけないんだけど、大体20万円以上かかるし。
「にっ……!?」
そして恥ずかしながら我が家の家計にあまり余裕はない。
「う、うむ、それは某も謹んで辞退させていただく。そうか……車を操るのも難儀なものだな」
そう呟くと、武士は窓の外に目をやった。ちょうど幼い子が三輪車をこいでいるところだった。
「あの者も、苦労して免許状を取ったのか……」
いや、あの者の車はまた別のものでして……。




