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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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年末だらだら

 仕事は無事に収まった。便宜上収まったということにした。はみ出た分は、来年の自分が何とかするだろう。いつだって最強の敵は過去の自分なのである。

 ご覧、あの空を。仕事を収めたあとの空はいつだって清々しいのだ。なあ、武士よ。


「寒い」


 そうだなぁ。雨降ってるもんなぁ。せめて雪が降ってくれたならテンションが上がるものを。ただ、私も山間の生まれであるので、雪が最も凶悪に牙を剥くのは一度溶けて再度凍った時であると知っている。年末で交通量が増えるこの時期、雨で済んでいるのはいいことなのかもしれない。

 さて、仕事も収めたし、ケツバトラーでもするか!


「望むところよ!」


 そうして武士はふんどしにコントローラーをセットした。忘れてた。このゲーム、プレイヤー側の絵面が最悪なんだった。

 だが言い出した手前引き下がることはできない。いざケッ闘!


 2分後。


「勝った」


 負けた。ムカつく。ケツを使ったバトルで敗北するほど屈辱的なことはない。


「大家殿、負けは負けである。潔く認め、昼飯の準備に取りかかるがよい」


 交わした覚えのない約束が生えてきたが、これも日常茶飯事だ。だが今日はカップラーメンで済ませようと思っていたので、私の用意といえばお湯を沸かすぐらいである。

 私はわかめラーメン、武士はシーフードヌードル。あいも変わらず武士はお湯を注いでラーメンが出来上がるという理屈が納得できないらしく、毎回律儀に3分間カップ麺の前で正座をして見守っている。


「中で何が起こっているのだろう」


 武士は首を傾げる。


「いっそ中を見てしまいたい。だがそれは日清への裏切りだろう。そして、裏切り者の前に現れる蕎麦などないのだ……」


 蕎麦じゃねぇよ。ラーメンだよ。

 つかそんなに気になるなら、1分ごとにちらっと蓋を開けて覗いてみれば?


「そんなことをして中の麺が天に帰ってしまったらどうする!」


 お前はカップ麺をつるの恩返しのシステムだと思ってるの? よしんばそうだとして、お前はいつ麺的なものを助けたのよ。

 ちなみに私は2分30秒位で蓋を開けてしまうタイプの人間である。武士には言ってない。どんな目を向けられるかわかったものじゃないからだ。


 さぁ、こんなことを話している間にも時間を過ぎていく。だが今日は徹底的にごろごろすると私は決めたのだ。いくら年末とはいえ、仕事を収めて帰ってきた次の日ぐらいはこうしてぐうたらしたっていい。


 その分しわ寄せが明日に来るのだがな!


 次回! 『大掃除編〜なくしていたと思ったハンコがなぜお前のふんどしの中から〜』

 乞うご期待!!

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