くりすますつりー
クリスマスまで日がないというのに、うちにはクリスマスツリーがない。
そして本日、ついに武士がそれに気がついた。
「星輝殿宅には、それはもう立派な木が生えておったのだ」
夕食後、正座をさせられた私は武士にとくとくと説得されていた。
「これはなんぞと尋ねてみると、くりすます釣りと言うではないか。なんでもこの木を仕掛けておくと三太殿が引っかかり、物を置いていってしまうのだそうだ」
だそうだ、じゃねぇよ。ツッコミどころが多くて私一人の力じゃ手に負えねぇよ。
「しかし大家殿……うちにはくるまるす釣りがないな?」
つかお前小学生男子の家に遊びに行ってんの? 自分の息子が友達連れてきたと思ったらちょんまげ成人だった親のお気持ち考えな?
「うちにもくるます釣りがほしい。三太殿を呼び寄せるのだ」
三太殿の人権が危うい発言だな……。大丈夫、そんなことしなくても三太殿はうちに来てくれるよ。
「まことにか? なぜだ? なぜまるすく釣りがいらんのだ」
それは……えーと……あれだよ。
うちが三太殿の通勤コース上にあるからだよ。もののついでにプレゼントを届けてくれるんだよ。
「なんぞ、その理由は! 某が信じるとでも思ったか!」
クソッ、珍しく騙されてくれねぇ!
どうしてそこまで固執するんだ。さてはお前、三太殿とか関係なくシンプルにほしくなったな?
「……夜中に……まるくすちゅりがきらきらしておるのは、桜に匹敵する美しさだとは思わんか?」
……もー、仕方ないな。
わかった、オーナメント付きのクリスマスツリー探してやるよ。言っとくけど、あんまり大きいのは期待するなよ。家に置くスペースがないから。
「かたじけない、大家殿! 某、必ずや大切にいたそう! まるくすしゅ――」
なんでクリスマスツリーをいい間違えまくった結果、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって展開された思想をベースとして確立された社会主義思想体系(Wikipedia引用)に変わろうとしてるんだよ!!