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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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時々、どうしようもなく

 時々、どうしようもなく自分が無価値なもののように思えてしまうことがある。取るに足らず、何者にもなれない人間なのだと。

 誰かに必要とされたいのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。あるいは、ただ単にやるべきことを見失っているだけかもしれない。ただ、こういう時は、雑踏の中に紛れていると自分が自分であることを忘れてしまいそうになる。


 虚しい。寂しい。この感情をあえて言葉にするならそのあたりだろうか。


 それでも陽は落ちて、ありがたいことに私には帰る家がある。空腹を満たせる程度の食事をとれるし、数時間体を休められる布団もある。私は十分幸福なのだろう。

 しかし虚しさは、どれほど幸福な境遇だろうと心に忍び込んでくるわけで……。


「ぬおおおおおおおおお!!!!」


 ――センチメンタルな気持ちで帰宅した私の目に飛び込んできたのは、尻をバウンドさせてベッドから床へ落ちる武士の姿だった。


 ……。


 え?


「うおおおおおお!! 尻が!! 尻が!!」


 床に転がる武士は、天に向かって突き出した尻を両手で押さえて呻いている。

 何事? マジで何が起こった?


「尻がビートを刻んでおる!」


 痛みでじんじんしてるってこと? うわっ、何が言いたいかわかっちゃった。嫌。


「なぜ突然帰ってくるのだ! もう少し、こう……前フリをだな!」


 無茶言うなよ。で、何してたの?


「……」


 ……。

 いや、言えよ。


「……もし、大家殿のベッドの上で跳ねたら……いつもより高く跳べるのではと、考え……試しに、跳ねておった……」


 ……。


「すると大家殿が急に帰ってきたために……驚いて、足をすべらせたとこういうわけだ」


 ……。


 ぺぇん!(武士の尻を叩く)


「ぬえええん!!!!」



 こうして、またも私の存在価値とかそういうセンチメンタルな感情は吹き飛んだのである。実際どうでもよくなるだろ、こんな生き方してるやつが生活圏内にいたら。

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