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懐中電灯
武士が現代日本に現れてさほど経っていない時期の話。夜、コンビニに行こうとした武士が私に向かって言った。
「提灯を貸してくれ」
そんなもん一般家庭にまずないよ。懐中電灯ならあるけど。
「なんぞそれは」
おお、まだ見たことなかったか。これだよ。
「ほお、これが? ……小さいのぉ。こんな小さきもので我が足元を照らせるのか?」
それが足元どころの話じゃないんすよ(電気を消す)。
はい(懐中電灯スイッチオン)。
「ぬおおっ!!? おおおっ!!? おおおおおおっ!!????」
武士の雄叫びが夜の8時にこだまする。やめろ! ご近所の皆様の無邪気な通報でアパート追い出されたらどうするんだ!
しかし驚くのも無理はない。武士が見たのは、少し離れた場所にある洗濯物がくっきり丸く照らし出された光景である。提灯じゃなかなかこうはいかない。
どうだ、すごいだろう。
「すごいのは懐中電灯であって大家殿ではない」
むかつく。
「あと洗濯物がたくさん残っておるのにも驚いた」
ああ、マジでいっぱいあるな。今日はもう遅いし見んかったことにしとこ。