お仏壇
私が住む部屋には仏壇や神棚がない。といっても、今時アパートで一人暮らしする者ならさほど珍しくないだろうが。
だが江戸時代は家に仏壇があり、仏様を拝むのが普通だった。これは檀家制度が始まったことが大きなきっかけだという。
武士は何も言わないけれど、ある日突然日常に根ざす習慣や物が存在しない場所に連れてこられ、日々を過ごさなければいけなくなったストレスは相当なものだったんじゃないだろうか。私はせめて、小さな仏様を家で祀るべきなんじゃ……。
そんなことを考えていた矢先、武士が大事そうに両手を揃えてその上の何かを眺めているのに気づいたのである。
どしたん? 話聞こか?
「ぬおっ!? 驚いたぞ!」
私が後ろから覗き込んだら、武士はぴょんと飛び上がってその何かを背後に隠した。なんだぁ? 見られて困るものかぁ?
「……お、怒らぬか?」
怒らぬよ。何? 何持ってんの?
「……」
武士が恐る恐る差し出した物、それは――
ヌオー(ポケモン)のマスコットだった。
どしたん? 話聞こか(圧)?
「怒らぬと言うたではないかーっ!」
ごめん、怒ってない怒ってない。でもほんとどうしたの? ヌオー、かわいいね。
「そうであろう。実は、その子は天からの授かりものなのだ」
天からの授かりもの?
「うむ。賽銭を入れ、祈りながら丸き出っ張りを回す。すると天が恵みものを授けてくれるのである」
ええ? なんだ、そのシステム。全然わから……
……あっ! もしかしてガチャガチャのこと!?
賽銭じゃねぇよ!! 普通に代金だわ!!
「前々から気になっておってな。試しにやってみたのだ。だが後から賽銭の額の大きさに震え、大家殿に内緒にせねばならぬのではと思い始めた」
最近のガチャガチャ、結構な額するからなぁ。まあいくらでもやれとは言えないけど、たまにやるぐらいならいいよ。
「まことか!?」
たまにだぞ! どうしても欲しいものだけな!
「うむ、感謝する。しかし当分の間はこの子のみで良い。見ろ、汚れに強い素材でできておるのだ。お守りも同然にして、身につけておける」
ああ、確かにシルバニアファミリーは、汚れた時のことを考えるとちょっと外に持ち出しにくいからね……。
「そうだ。その点この子は安心である。しかし、こうしていつもそばに小さく愛らしきものがいてくれることはなんと心強いものか。まるで小さな仏様がそばにいてくれるかのようだ……」
仏壇がなくても心の拠り所を見つけられるタイプなんだな、お前は……。よかった。でも今のお前だと、仏壇を用意してもシルバニアファミリーを祀りそうだね。
「ぬ、仏壇を買ってくれるのか? そういえば、家具を置き始めてから少々銀之丞(シルバニアファミリーのシマネコの赤ちゃん)たちの家が手狭になり始めてな」
仏壇にシルバニアファミリーを住まわせようとするな。ご先祖様もバチを当てたもんかどうか困惑するだろ。




