いい夫婦の日(数日遅れ)
武士について話すと、かわいい女の子でもないのに養う意味あるの?w と笑われることがある。そんなデリカシーのない問いに対し、私は控えめな冷笑と共にこう返している。
いつも屈託なく笑い、楽しそうにしているやつが家にいると想像してみろ。家の外で面倒なことがあっても、帰ったら必ずひとつは笑えることが起こる。そんな毎日は結構悪くない。
それはそれとしてかわいい女の子がいるに越したことはないので紹介してください。
すると十中八九かわいい女の子の知り合いがいない相手は、そそくさと逃げていく。私の勝ちだ。泣いてなんかない。
だが、この年で独身だとやはり時々つっつかれたりもする。最近は多様化が進み、独身をバカにする風潮はなくなってきたものの、会話のネタにはなる。まあ腫れ物にでも触るような態度を取られるよりマシだ。
しかしこの話を武士にしてはならない。しようものなら、おもむろに夫婦ごっこが始まるからだ。
「某は亭主関白である!」
本日も始まった。私は話題を振ったことを後悔している最中だ。
「しからば椀に山盛り白米を注ぎ入れるのだ! 亭主の言うことであるぞ! ぬぬん!」
空っぽのお椀を突き出し、何やらほざいている。私はお前の妻でもないし、よしんば妻だとしてもかような口を叩く者に出す米はない。土でも食ってろ。
「だが某は知っておるぞ。土は高いのだろう?」
ふふふと腹立つ笑みを浮かべながら武士が言う。土が高い? 園芸用か?
くわしく聞いたら土地の話だった。これは江戸時代にもあった概念だろうから純粋に武士がアホである。
「ぐぬう!」
武士は悔しがっている。
「土はうまくない……! 米を食いたいのだ!」
つかさ、亭主関白もあれ働いてるからできることじゃない? 亭主関白ごっこは一家の大黒柱になってからやりなー。
「……」
武士はお茶碗を置くと、すっと立ち上がった。そして部屋の隅に行き、両腕を持ち上げる。
「ばおばぶの木」
柱にしては背が足りてねぇし、バオバブ要素ねぇし、どこで仕入れてきた情報か一ミリもわかんねぇし。
私は爆笑した。こんなもんが日々の潤いになってるのは私としても不本意だから、早めにかわいい女の子に交代してほしい。