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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
43/677

 雨が降っている。


 雨は嫌いじゃない。もちろん外出しなければならないとなると煩わしいが、雨粒が屋根を叩く音や、窓を滴る滴、花や葉に水の玉が乗っかった風景など、ああいいなぁとしんみりするのだ。


「大家殿」


 自分が俳句などを嗜んでいれば、雨が降るたびに一句詠めただろう。それぐらいには、好きな気がする。


「どうぶつえん」


 小さな子が新しい傘を試したくて、困ったように笑う母親を無理矢理外に連れ出している。そんな光景も、雨ならではだ。なんという微笑ましい世界ではないか。


「大家殿、動物園」


 だから雨降ってるから無理っつってるだろ。


 私は、コンビニのおにぎりを数個携え玄関に佇む武士に言った。


「傘をさしていけば問題ないではないか! 其キリンが見たいぞ!」


 やだよ。そんでもまあまあ濡れるじゃん。

 今日は家で一日漫画読むんだ。そういう日だ。


 寝っ転がったまま『銀と金』を読む私に、武士は地団駄を踏み踏み声を荒げる。


「大家殿は雨が好きなんだろう!? ならば構わんではないか!!」


 んにゃ、嫌いだよ。

 今嫌いになった。


「おおお大家殿おおおおおお!!」


 おおうるせぇうるせぇ。


 私は武士に背を向け、また『銀と金』に目を落とす。何度読んでも面白いんだよな。続編出ないかなぁ。


 ……たまの休日、子供に外出をねだられる父親とはこのような気持ちなのだろうか。

 しかし、私は独身である。何が悲しくて愛する妻も子もいないのに、そんな煩わしさだけ味わわなければならないのだろうか。


「動物園ーーっ!!」


 雨はますます強くなり、負けじと武士の声も太くなる。

 煩わしさも疑問も増えるばかりだが、そういう日もあると割り切るのが長い人生において大切なのである。

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