スカッと
ふと、武士が流しっぱなしにしているyoutubeを覗き込んでみた。
なんだか既視感のある文章だ。まるでかつて私が一人暮らしだった時、眠れない夜にパソコンを立ち上げて見た光景のような……。
スカッと系コピペじゃん。なつかしっ。
「因果応報と善悪がはっきりした話は好ましい」
ああ、わかりやすく脳内快楽物質の虜になってるなぁ。
スカッと系コピペ……古くは勧善懲悪もの、今の小説系サイトではざまぁ系って言ったりするよね。どれだけ時代が変わってもみんな大好きな題材だ。
「大家殿にこういう話はないのか? ほれ、普段から発言が二転三転する上様がおるであろう。あの者がまんまとやりこめられる話とか持っておらんのか?」
ないねぇ。ヤツと私の件で出てくるエピソードなんて、せいぜい私がヤツのコートを自分のだと思って着て帰ろうとしたぐらいのもんだ。
「大家殿がやらかす側なのか?」
まだある。残業中、誰もいないと思った私が印刷ミスった見積書を歌いながら紙飛行機にして遊んでたら、会議を終えた上司連中がぞくぞくと我が部署に帰還してきた。
「大家殿がやらかす側なのだな?」
生きててスカッとザマァするようなことなんざ滅多にないよ。だからみんなこういう話に飛びついちゃうんだろうね。
「ふむ……言われてみれば然り。なかでも浮気者に報復する話を多く見たぞ」
浮気はわかりやすい悪だからなぁ……。
「さて、よい時間だ。本日は大家殿のすかっと話を聞きながら眠るとするか」
お前に読み聞かせする習慣はありませんが。私はシェヘラザードか?
「おぺぺ……?」
シェヘラザードの発音を一発で聞き取るのは難しかったな、ごめんな。
わかったよ。お望みどおりにしてやるからおふとんに横になりな。
「わくわく」
アーニャじゃねぇんだ、口に出すな。
さて……昔々あるところにおじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きましいた。
「待て大家殿。それは桃太郎ではないか?」
おうよ、最古のスカッとコピペだろうが。大丈夫、鬼の悪行は原作より綿密に描写するから。
「なら……よいか……」




