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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
411/679

今になって節分の話

 武士が「ぬおおお! これが某の全力だ!!!!」と叫びながらリップクリームを限界まで出して塗ってました。

 全力出してんのはお前じゃなくてリップクリームだろ。


 どうもこんにちは大家です。皆様におかれましては節分に鬼は外福は内をなされたでしょうか。

 武士は今年、何が何でも豆を投げたかったようで私に鬼役になるよう打診してきました。知らんがな。壁に鬼の絵貼って投げてろ。

 とはいえ、家の中そこらじゅうに豆を投げられたら掃除がたまったもんじゃない。そういうわけで、私が鬼役になることを条件に今年は袋ごと豆を投げてもらうことにしました。


 100グラムの豆が入ってる袋ごとな!!


「節分の雰囲気が出ん!!!!」


 二回私にぶつけたところで武士は崩れ落ち嘆いた。まあ……そうでしょうな。豆まきっていうか袋投げって感じだもんな。

 そんでぶつけられるほうも結構痛いんだよ。


「今からでも遅くない。普通の豆まきにせぬか」


 でもそれは嫌なんだよねー。最近ちょっと掃除がおろそかになってるから、この床に落ちた豆をSDGsしたくない。


「食料廃棄は由々しき問題であるからな。ふぅむ、ならば……」


 武士は豆を回収し私に背を向けると、何やらごそごそやり始めた。振り返ったその手に燦然と輝いていたのは――!


「牛男大豆!」


 ガムテープで長い紐をくっつけた豆袋だ! カウボーイのごとくぶんぶん振り回している! 牛男ってなんだよそれはもうカウボーイを覚えたほうが早いだろ。


「つりゃ!!」


 痛い! 100グラムの重さに遠心力が加わってる! しかも紐をつけたことで回収も早い!

 なんだ今年の節分! 私とこいつは何をしているんだ!!


「鬼は外! 福は内!」


 掛け声にしか節分要素が無ーーーーーーー!!

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