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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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衣替え忘れてた

 寒い。


 しかし、冬服をまだ出していない。


 うっかりうっかり。


「大家殿、間借りしている身でこのようなことを言うものなんだがな。よければ、そろそろ温かき布を……」


 武士はタコぬいぐるみを膝に抱え、タオルケットを全身に巻いて震えている。

 そうだよなぁ、お前まだTシャツだもんな。


 流石に哀れと思い、押し入れの中をガサゴソと漁る。私も寒いし。何か無いかな。


 あ。


 これとかどうだろう。


「……大家殿、それは……」


 学園祭の時に使ってそのまま忘れてたんだよ。

 もうなんでもいいだろ、この際。


 そして半ば無理矢理武士にそれを押しつけて、数分後――。



 狭いアパートに、犬の着ぐるみを着た武士が憮然と座っていた。



「……」


 ……。


「……大家殿のその格好は?」


 ミーアキャット。


「……面妖な……」


 うるせぇな。

 かわいいだろミーアキャット。


「みー?」


 よく覚えられなかったらしい。犬のくせに「みー」言うな。


「して、何故大家殿はこのようなものを?」


 桃太郎知ってる? 大学のお祭りでさ、劇やったんだよ。

 犬と猿の着ぐるみはあったんだけどさ、どうしてもキジだけ見つからなくて。

 仕方ないからミーアキャットで代用したんだ。


「犬、猿、みー……」


 そうそう。

 ミーアキャット出た瞬間の会場の空気すごかったよ。『お前がキビダンゴもらうの?』みたいな。


「だろうな」


 うん。


「ちなみに、どのようにして鬼に立ち向かったのだ?」


 いや、立ち向かわねぇよ。だってミーアキャットだもん。

 ずっとお日様に向けてお腹あててたわ。


「……役に立たぬな……」


 バッカお前ミーアキャットかわいいんだぞ? 案外気性荒いけど。仲間内で争って全滅した例もあるとかないとか。

 ま、この着ぐるみはちょっと微妙だけどな。

 この動画とか見てみ。


 武士にミーアキャットがもふもふチョロチョロしている動画を見せてやる。案の定、ものすごい食いつきを示した。


「大家殿、其の服と交換してくれ。其も陽の光に腹をあてる」


 ダメだ。ミーアキャットは私のだ。


 今度動物園に連れていってやるのもいいかもしれない。私はそう思った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 隙間時間に読める長さなのに、公共の場で読むのは危険。 鬼退治中にミーアキャットだけ陽の光を浴びている光景を想像するともうヤヴァイ。 なんというものを書いてくれたんですか! ありがとうござい…
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