動けぬ朝の話
最近、朝が起きられない。
といっても仕事にいかねばならないので、無理矢理這い出すのであるが。休日はだめだ。もうずっとぶっ倒れている。
ちょっとこれ、なんだかよくないような気がするのだ。最近色々あって(ここずっとこればっか言ってるな)、私の人生の中では異常な状態が続いていた。まだ足りない、私が悪い、もっと頑張らねば、やらねばと。
そうしたら、全身が鉛のようになって動かなくなった。
「気負い過ぎである」
ぶっ倒れる私を見下ろして、武士がのんびりと言った。
「気楽に生きればよいのだ。大家殿が何を為しているかは、お天道様が見ておる。だから、心のままに真っ当にあればよい」
そっかー……。
……じゃあ、散歩行くか。
「うむぽ!」
新手の若者言葉か?
そんなわけで散歩に出た。幸い天気はいい。
が、風が強い。髪がもう岩場にはりつくワカメみたいになってる。そういや、ここんとこ髪も切ってなかったな。
「前髪だけはいけておるぞ」
お前のせいでな。大変アヴァンギャルドなことになっちゃってるよ。
「ぬ、大家殿。桜が咲いておるぞ」
え、もう? 早くない?
「この時期に咲く桜もおる」
いやそうじゃなくて。なんかほんのすこし前にも武士と桜を見に来たような気がしてたんだけど……。
「ああ、時の流れ……」
うん、時の流れ……。
「……」
……。
「……この風では、せっかく咲いた桜も散ってしまうのではないかな」
話題戻したね。や、大丈夫だよ。桜ってのは、満開になるまでは散りにくいもんだから。
「そうなのか?」
うん。花が散るのは桜側の事情も結構あるよ。あれ最終的には散るためにできてるから。
「潔いな」
そうだね。そういう美しさも、日本人の惹かれるところなのかも。
「だが足下には、切り捨てた花びらでいっぱいである」
お前はいい話にしたいのか、風情がないのか、どっちなのよー。
「何事も良し悪しだ。潔いのは見事だが、それで何もかもなくなるわけではないな。だが桜はそんなこと、気にせぬだろう。そこだ。きっとそこが、大事なのだ」
なんかまとめてきたね。
うん、でも、そうだな。そうなのかもな。




