現代アート
ふと思いついて、武士を連れて現代抽象アート展に行ってきた。江戸時代にはなかったジャンルの絵だろう。果たして、ヤツがどんな反応をするのかと楽しみにしていたのだが……。
「ぬ!」
武士は、絵を見るなり目をキラキラとさせた。
「うむ! ……うむ!」
そして一枚一枚じっくりと見て、腕組みしたままうんうんと頷いた。
「よく描けている! 元気いっぱいだ! この絵を描いた稚児らを皆褒めてやりたいぞ!」
賞賛をありがとう、武士。だが一つ言っておかねばならない。実はここに飾られている絵は、全て大人が描いたものなのだ。
「まことか?」
まことだ。
「……?」
そんな不思議そうな顔をされても……。
「ぬぬ、確かによく見れば、これを幼児が描くには難儀か。もやもやと色や形を組み合わせ、何らかの意味を持たせているようにも見える」
ほーん、いい視点じゃん。どういう意味だと思う?
「……今朝食べたおにぎりは……よもや少し腐っておったかもしれん……腹が……苦しい……」
そういう方向の極限でアートは生まれないんじゃないかな……。いやわかんねぇな、生まれるかもしんねぇ。何もわからねぇや。
「大家殿は、この絵から何を感じたのだ?」
そうだなぁ。
もう何もわからん! ええい、描いたれ! みたいな?
「やけっぱちではないか」
でもさ、こういう絵っておしゃれな感じするよね。モダンな邸宅に一枚は飾ってるイメージ。私も正直、人間の顔が描かれた絵よりはこういう絵のほうが好きだ。
「人を描いた絵よりもか?」
人間の視線があるのが嫌なんだよな。だからあまり家に写真とかも飾りたくない。
「であれば、大首絵なども苦手であるのか」
いや、あそこまでいくと、結構好きになってくる。
「難しいのー」