会社に猫
先日、土曜日出勤した時である。
先輩が、私服で会社にやってきていた。
いや、全然いいのだ。今日はあくまで社内の事務仕事だけなので、外に出る用事はない。加えて休日出勤なのだ。私さえ目をつぶれば、先輩は誰にも咎められないだろう。
だが、先輩の服から「にゃー」とか細い声が聞こえてきたら話は別だ。
「……」
先輩がこちらを向く。でっかいパーカーのポケットから、黒白のハチワレ猫が顔を出していた。
二匹、いた。
「……まだ、子猫でさ……」
……はい。
「……旦那さんも、偶然仕事でさ……」
……はい。
「……一匹、抱っこさせてあげるから……」
はい、黙っておきます。
膝の上にイキモノを乗せてする仕事は格別である。しかし、なんで会社に猫を連れてきちゃいけないんだろうね。猫側がいいって言えば連れてきていいルールに変わらないかな。無理か。二時間ぐらいで終わる仕事が半日以上かかったもんな。なんせ猫ちゃんと離れがたくて。
そのことを武士に伝えたら、死ぬほど羨ましがられた。
「ずるい!!!!!」
ずるい言われても。
「なんぞその猫と戯れるだけで銭のもらえる仕事は! ずるい!!」
いやいや、本業のほうもしてたよ。それに猫がいたのもたまたまその日だけだって。いつもそうなわけじゃない。
「ぬう。猫と戯れるだけで銭がもらえたら良いのに……!」
無理だろうなぁー。猫ちゃんお世話してお金がもらえる仕事は、必ず命の責任がのしかかってくるからね。
「うむ、某も虫の良いことを申してしまった。心より侘びたい」
おお、真摯だ。でも気持ちはわからんでもないよ。私はてっきり、猫を飼いたいと暴れ回られるかと。
「失う痛みを思えば勇気が出ん」
わかるー。
 




