前髪
人間生きていたらどうしても髪が伸びるので、適宜切らねばならない。だけどちょっと前髪が伸びたぐらいなら、自分で切って終わらせてしまうこともある。
だから、今回もそうしようかなと思ったのだが……。
「やりたい」
シザーハンズと化した武士が、なかまになりたそうにこっちを見ていた。
「某も、髪結いになりたい」
やめてよ。
シンプルな拒絶で申し訳ないけど、やめてよ。
「だが前髪を切るだけなのだろう? 実にたやすきことよ!」
ふふーん、と鼻を鳴らす武士に、並々ならぬ勢いで立つフラグを感じる私である。そういうこと言うやつほど、とんでもない前髪をこさえるんだよ……。
「頼む」
いや。
「このとおり」
絶対いや。
「某秘蔵の踊りを見せるから」
釣り合わねぇよ。見ねぇよ。
「よいのか? この踊りを見た者は、すべからく腹を抱え天地を揺るがすほど笑い転げたというが」
何それ。だから見ないって……。
「父上曰く、将軍にお見せした日には危うく次期将軍になるところだったと」
嘘つくにしても堂々としすぎだろ。
……。
…………。
踊りはクソみてぇにアホみてぇでした。でも今の私の前髪のほうがクソアホなので、どうでもいいですね。はい。私の馬鹿野郎。