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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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台風

 台風が来ている。


 武士は食い入るようにテレビを見ており、巨大な雲の塊にただただ怯えているようだった。


「某、実は今まで台風というものをよく知らなくてな……。しかしここの世では、空のものを更に上から見ることができるのか。なんと恐れ多いエレキテル」


 エレキテル関係あんのかな。


 しかし、なんせ今回の台風は十年に一度の災害レベル。

 あの気象レーダーを見てしまえば、いくら武士といえど不安になるのも無理はないだろう。バカスカ警報も出されてるし。


 台風、怖いな。そうだよな、怖いよな。


 ――仕方ない、それではアレを出してやろう。


 私は武士の前に、ドドンとあるものを置いた。


「お、大家殿、それは……!」


 武士の驚愕に、私はフフンと微笑む。


 そう、私が出していたのは、人の作りし禁断の供物――手羽先の甘辛であった。


 枝豆もあるし、TSUTAYAで借りてきたDVDもある。

 あと、おまけでお菓子と炭酸ジュースも。


「なんという贅沢! お、大家殿、本当に構わぬのか!?」


 おー、構わんよ構わん。

 水はたっぷりタンクに溜めたし、お湯や火無しでも食べられる食料は備えたし、スマホの充電器はフルにしといた。これ以上この家でできることはない。


 あとは、ビビりながらもいつも通り愉快な夜を過ごすだけである。


 でも避難勧告出たら即刻逃げるから、酒は無しな!


「……大家殿、もしかしてこの手の災害には慣れておるのか?」


 地元がなー、災害県だったんだよなー。

 なんならこないだもちょっと浸かってたし。


 そう言うと、武士は早速手羽先をかじり始めた。


「……確かに、アレコレと気に病むよりは、元気な内に英気を養っておかんといかんな」


 そうそう、案外後片付けの方が大変だったりするからね。


 武士と手羽先を貪り、借りてきたDVDを見る。やっぱり何度見ても『パシフィック・リム』は最高だ。大嵐の中、立ち上がる巨大ロボットなんて鳥肌ものじゃないか。手羽先だけに。


「ロケットパーンチ!!」


 武士の片手が勢いよく上がる。そのシーンいいよね。


 同意しながら、災害情報を見ていたツイッターの画面を隠した。


 外はいよいよ雨が打ち付け、ボロアパートも悲鳴を上げている。

 それでも雨を避けられる屋根があれば、不思議とシェルターにいるような気持ちになれて、きっと明日を迎えられるだろうという心持ちになれるのだった。

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