玄関前で倒れていたら
爆弾低気圧とやらの影響か、はたまたシンプルに年明けの多忙か。帰宅して靴すら脱ぐ気力もなく、玄関でぐったりと倒れていた私に、出迎えてくれた武士は無言で一度部屋の中に引っ込んだ。
私は疲労で、ぞんな武士の姿を確認することすら億劫だった。そして数秒後、ドアの開く音がし、私の肩にそっと柔らかな何かが乗せられた。
「毛布である」
武士が優しく言う。
「人間、体が冷えるとろくなことがないからな。一度体を温めたのち、動くがいい」
武士……お前……。
ありがとう。お前の気遣い、確かに受け取ったぜ。ならば私はもう少しここでゆっくりして――
「ズズズズズー」
……。
「ズズズズズズズズズー」
……。
何の音?
「たぴおかと牛の乳と茶を混ぜたものを吸うておる」
タピオカミルクティーね。
え、今頃?
「美味いものは美味いのだ。別にいつ吸っても良かろう」
はあ……。
「ズズズズズー」
……。
「ズズズズズおふぇっ、ゲホッ、ガホッ」
たぴおか喉に詰まらせてんじゃねーよ! 気をつけて飲めって!
つーかうるせぇ! 飲むにしても部屋で飲めよ!
「それが某も毛布に入っておるからして」
なんでお前まで入ってきてんの!? こたつ行けよ! 部屋に戻る手間を横着するな!
結局、ずっとタピオカミルクティーがうるさかったので秒で起き上がり部屋に戻った。武士は飲み切るまで、のんびり毛布に入って玄関前に座り込んでいた。




