忘れっぽい
武士は、結構忘れっぽい。
「えー……なんだったかな。あれだ、あれである。ご近所とろろ芋みたいな名前の話……」
となりのトトロである。
「風通しの良い場所に住まうナウマンゾウ……」
風の谷のナウシカである。多分動物繋がりで覚えてた結果ナウに流された形だろうな。残念ながらゾウじゃなくてシカである。
「風と共に立ちぬ……」
どっちだ。「風立ちぬ」なのか「風と共に去りぬ」なのか。まあ流れ的に前者かな。
「あれだけ男を袖にしておいて最後の最後で手のひらを返すとはどうにも解せん」
後者かよ。いつ見たんだよ。
そんなわけで、忘れっぽいというかそもそも物事を記憶する努力を怠っているのが常の武士である。だが暇な時は危機感を抱くこともあるようで、ある日神妙な顔で呼び出された。
「のう、大家殿。某は最近思うのだ。あまりにも己は忘れっぽすぎるのではないかと……」
そーね。
「よもや……よもやあれかもしれぬ。某の記憶は……!」
お、何何?
「某の記憶は、三歩しかもたないのかもしれん……!」
その言い方だと悲劇よりニワトリ寄りになっちゃうな。
たとえば記憶にまつわる物語ってのはたくさんあって、80分しか記憶が持てない博士との心の交流を描いた「博士の愛した数式」とか、10分以上の記憶が保持できない男が恐ろしい執念で事件の真相を追っていく「メメント」とかあるよね。でもお前の場合は「チキンの愛した米ぬか」とか「コケココ」とかになりそう。空前の大コケを見そう。
「それもまたケッコウなことである」
うまいこと返すな。本気で悩んでる人間の返答じゃねぇんだよ。
「それに引き換え、大家殿は記憶力が良いことであるな。何かコツはあるのか?」
えー……そんなコツ無いよ。でも、そうだな。イメージで覚えるってのはやってるかも。
「いめぇじ……。それは某もやっておるのだがな」
あ、そうなの?
「その結果、言葉にする際『己が顔をちぎっては投げちぎっては投げ悪を成敗する菓子ぱんの化身』などと申してしまう」
イメージ先行型になるのか……。あとアンパンマン、お腹空いてる子に顔をあげはするけど、ちぎっては投げの攻撃はしねぇと思うよ。




