表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
294/679

花見未遂

 色々限界が来たので、有休を取った。人生は一度しか無いのだ。自分がもう無理と思ったなら休んでいいのだ。無理をしてる暇なんて無いのだ。


「ならば桜を見に行こうぞ」


 そんなわけで惰眠を貪っていた私だったが、突然武士に花見に誘われた。え、桜? まだ咲いてなくない?


「それが咲いておるらしい。電車で四駅行った所の近くに土手があろう? そこだ」


 情報源は?


「大家殿の大家殿」


 あー……うちのアパートのガチの大家さんね。なんで仲良くなってんだよ、お前。


「行こう!」


 断りたかった。つーか断るつもりだった。しかし武士の目を見て、「これ断ったら根に持たれる目だわ」と察した私である。

 まあ、気分転換ぐらいにはなるかな。そう思ったのにも違いない。





 

 薄ぼんやりとした青空から、燦々と暖かな光が降り注いでいる。まさに春めいた気候といった所だ。


「おお、大家殿! 聞いたか!? 今ウグイスが鳴いたぞ! あの枝だ!」


 そんな中で武士は、きゃっきゃとはしゃぎながらウグイスがいたっぽい枝に向かっていった。しかし三歩ほど歩いたあたりだろうか。木から「ヂヂッ!」と一羽の鳥が飛び立った。


「……ホケキョは……?」


 ウグイスも、危険を察知したらホケキョ以外鳴くんじゃないかな……。


「何だと? 夢が壊れた……」


 お前だって、鼻歌歌ってる時に私に蹴られたら「ぬおっ!?」って言うだろが……。


「桜はあちらである」


 分が悪いと判断したのか、あっさり武士は話題を変えた。なんてやつだ。

 しかし、こうして見渡してみると季節は顕著なものである。ホトケノザにぺんぺん草、菜の花が小さな花を咲かせている。春の訪れを感じさせるには十分だ。

 ……十分、なのだが。


「桜……」


 ……。


「桜ー?」


 土手の桜は、まだ咲いていなかった。

 かろうじてつぼみが膨らんでいるぐらいで、マジで一輪も咲いていなかった。


「桜ーーっ!!」


 呼びかけて咲くもんでもねぇだろうがよ。


「ぬぬぅ! これはどういうことなのだ! よもや気のせいだったとでもいうのか!?」


 気のせいの主語が何になるか一ミリも分かんないけど、あれじゃない? 土手の桜は咲いたら綺麗よー、みたいな話だったんじゃない?


「むむん」


 目に見えてがっかりしてる……。


「むむん……」


 嫌……こっち見た。


「……」


 ……。


 ……その、あれよ。

 咲いた頃にさ、また来たら?


「む……その時は、大家殿もまた付きおうてくれるのか?」


 ああ、うん。いいよ。それぐらい全然。


「むむん!」


 お、復活した。


「約束だぞ! 咲いたら絶対に某とまた来るのだ!」


 はいはい、約束約束。


「そして帰りはたこ焼きを買おう!」


 いいよ。ソースはピリ辛がいいな。


「甘口が至高!」


 別に止めないから、好きなものを買えばいいよ。

 ……んー。


「どうした?」


 ……なんか、お前が桜の咲く頃までいるって当たり前に思ってる自分に気づいてさ。


「おお」


 嫌だなと思って。


「何故嫌がるかー!」


 ともあれ、なんとなく元気にはなった花見未遂だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 流石にまだ蕾でしたか。 今年はムリでも、来年こそはおべんと持ってお花見したいですね。 武士とならなんでも楽しめそうだし、密を避けて夜桜も良さそう…(*´∀`*)
[一言] ウグイスが鳴くのは、つがいを求めるためなので。(*´ー`*) 「俺の彼女にならな〜い?」と叫んでいるところに武士が来たら逃げる一択かと。 桜の花見、楽しみですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ