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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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おでかけ編6

 現代日本の誇るスーパー銭湯。広くて、清潔で、風呂の種類もたくさんある。

 そんな場所を目にし、武士のテンションが上がらぬわけはなかった。


「明るい!!!!」


 何その開口一番。

 が、聞けば江戸時代の銭湯はやたらと暗かったらしい。そんでもって狭かったとか。


「しかし広々としておるなぁ。果てまで見渡せるぞ。のう大家殿、某試しに走ってきても良いか?」


 そうだな、お前は一回ここにある注意書きを声に出して読んどこうね。周りに配慮した声でさ。

 そうして注意書きをじっくり読む武士を残し、私は体を洗いに向かったのである。わざわざ同じ行動を取ることはないのだ。こういうのは各々好きなようにやるに限る。

 あと、私は根っからの早風呂派だった。


「大家殿は烏の行水であるな……」


 たっっっっっっっっっぷり銭湯を満喫してきた武士が、冷たい麦茶を飲みながら言う。

 仕方ないだろ、体質的にのぼせやすいんだから。あんまり入ってると、すぐ頭が痛くなるんだよ。


「損な体であるのう」


 他で補ってるから大丈夫だよ。

 風呂なぁー。石鹸の匂いは好きなんだけどな。とにかく熱いのがダメなんだよ。


「水風呂もあったぞ」


 お前バカあれ温泉とかサウナ前提のやつだから。水風呂だけ入って帰る人まずいねぇから。


「ぬ? さうな?」


 あれ、行ってない? なんか木でできた戸があったろ。触るとあっついの。


「あー、あの重たげな」


 そうそう。あれ中に入ったらすげぇ熱いんだけどね。水風呂と交互に入ることで、体の調子を整えるんだってさ。


「蒸し風呂のようなものか? やってくる」


 また行くのか……すげぇな……。

 そんなこんなで、フルーツ牛乳を片手にぼーっと相撲中継を眺めて武士を待つこと三十分後。


「ぬぬぬー」


 武士が帰ってきた。真っ赤な顔をして。


「勝った」


 誰と何の勝負をしてたのやら。

 とりあえず扇風機のあたる所に座らせて、フルーツ牛乳を買ってきてやった。


「かたじけな……ぬわっ!? なんぞこの味! 知らぬ! 分からぬ! だが……うまいっ!」


 気に入ってくれたようで何よりだ。一気飲みしたらまたねだってきたので、黙って冷水機を指差した。あれ無料だから。無限に飲んでこい。

 ここで文句を言わず、ごくごくと冷水機の水を飲むのが武士のいい所である。


「楽しかった。また来たい」


 帰りの車の中で、ほくほくとしながら武士はそうのたまった。うんうん、いい一日になったのなら何よりだ。

 たまにはこういうのだっていいだろう。少しだけ寄り道をしたような時間だ。いつか多くの思い出の中に埋もれるとしても、今日という日が埋まった明日は少しだけ良いものになる気がする。

 きっとそういう日を重ねて生きていけたとしたら、心から満たされた人生になっ──。


「ふんどし忘れた」


 オッケーUターン!! ちょんまげ毟るぞ馬鹿野郎!!


 取りに行ったふんどしはジップロックみたいなのに入れられて渡されました。スーパー銭湯従業員各位におかれましてはお詫びの気持ちでいっぱいです。もう二度と行けない。


「また行きたい!!!!」


 すげぇなお前、メンタルがカルメルタザイト(※2019年に発見されたダイヤモンドより硬い鉱物)かよ。

 二度と行きません。

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