ハムスター
「はむすたあがほしい」
はい?
何? それどこで区切んの? はむ?
あ、ハムスターのことか。
……いやいやいやいやいや。
「この世界には、あれほど愛らしきネズミがいるのだな。いや某、ネズミもまあ好きなのだが、いかんせんあれは不潔だろう。ところがこの “ はむすたあ ” とやらはどうだ。ふわふわで眼がくりりとし、特にこの尻尾……尻……」
想像上に作り上げたエア・ハムスターを、うっとりと撫で回す武士である。
テレビで見てからというもの、すっかり虜になってしまったらしい。
武士は、前のめりになって私に言った。
「なぁ、大家殿。そろそろ我が家にも、新しき風を入れねばならぬ頃だとは思わんか?」
……新しき風はいいのだが、じゃあまずお前が帰ってくれないかなと思うのである。
この決して広くはない1LDKに、まだ住人を増やす気かコイツ。
そして私としては、どうせ呼ぶなら可愛いお江戸の町娘をだな。
……トレード制度とか無いのだろうか。
まあ、今はハムスターについてである。
私は武士を説得することにした。
――生き物を飼うというのは、命を預かることだ。餌や水替えは勿論、掃除だってしてやらなきゃいけない。お前は一日も欠かさずそれができるってのか? できたとしても、そうやってお世話してとても愛情が湧いた頃、ハムちゃんには寿命が来てしまう。ハムちゃんの寿命は大体二、三年だ。一つの命を満足させ、見守る。武士よ、お前にその覚悟はあるのか?
武士は、何よりハムスターの寿命の短さに驚いているようだった。しばし黙考し、やがて首を横に振った。
「某は目先の愛らしさに飲まれるあまり、思慮を欠いていたようだ……。確かに、其にはこの小さき者が息絶える瞬間を受け止められる自信は無い。大家殿、感謝する」
頭を下げられた。
そこまでされることはしてないので、やめてくれと頼む。こっちは諦めさせた側だし。
とはいえ、私が仕事に出ている間、武士は寂しい思いをしているのかもしれない。
……ペットロボットとか、高いのかな。
あ、高いわ。今調べたけど全然高いわ。無理だわ買えねぇ。
そんなわけで、武士の暇を潰せる何かを私は探してみるのである。多分ゲーム辺りに落ち着くんじゃないだろうか。明日、暇があれば部屋を探してみようと思う。