ちょんまげ復活
役者志望の人なんです。だから今も役になりきってて。いやほんと。ほんとですってマジで。
そんな事を言いながら、武士を美容師さんに押し付けた。この程度のフォローで怪しまれずに髷を結ってもらえるのか甚だ疑問だったが、ここまで来たら後はなるようになるしかない。
肝心の武士は、いっそ腹が決まったのかどっしり構えていた。
「頼もう!」
道場破りかな。
「これからオーディションなんですね! すごいなぁ、応援してます!」
「うむ、苦しゅうない」
美容師さんは流石対人商売の達人といった所で、ニコニコと武士に話しかけている。事前に武士には「何を言われてもウンウン言ってろ」と言い含めてはいるものの、私は武士が何かボロを出すんじゃないかと気が気ではなかった。
怪しいと思って通報され、家宅捜査になれば言い逃れはできない。うちにはモノホンの刀が置いてあるからだ。
……考えていても仕方ない。私は武士を待っている間漫画でも読もうと、設置されてある本棚に向かった。
そこで、驚愕する。
――『嘘喰い』、全巻揃ってるじゃん……!!
最近仕事や武士で忙しく、新しい漫画に手を出すことができていなかった。前々から読みたいと思っていたのだが、まさかここで出会えるとは……!!
「大家殿、終わったぞ」
気づけば、武士のことなどすっかり忘れて漫画を読みふけっていた。帰ったら電子版を買おうと心に決めつつ、振り返る。
見上げた武士は、こざっぱりしていた。
「やはり髪結いにやってもらうと気分が違うな! 大家殿、また来ようぞ!」
ちょんまげも復活して大層ご機嫌である。その向こうで、美容師さんが頭を下げる。
「マネージャーさん、お待たせしました。オーディション頑張ってくださいね!」
知らないうちにマネージャーにされていた。どんな会話が繰り広げられたというのだろう。
しかしそれを尋ねるのも怖く、次回頼む時はどんな口実を作ろうか……と考えながら、私達は美容院を後にしたのだった。