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武士がいる  作者: 長埜 恵
2.武士がいる
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試合

 不安定な刺激ばかり体験していると、のんびり平穏に暮らすことに不安感を覚えてしまうらしい。平穏という一見当たり前に聞こえるものも、人によっては慣れるための訓練が必要だというのだ。

 つまりまあ、ギャンブル系の主人公が全然足を洗えなかったり、昔腕を鳴らした老兵がまた戦場に赴いて「やはりここが私の舞台……!」なんて血がたぎっちゃうのも、ある意味順当な流れといえる。


 で、どうしてそんなことを話したかというと。


「試合をしたい」


 武士が、竹刀を片手にそんなことを言ったからである。


 えー。


 やめときなよ。


「なにゆえ!?」


 現代人と江戸武士じゃ戦いのフィールドが違いすぎるからだよ。大体お前の流派ってどこだっけ。


「暗黒蝶乃舞武者流」


 ほら絶対嘘だもん。騙されてるもん、師匠に。


「そんなことござらん! とにかく、某とてまたぴりりと肌が粟立つような試合がしたいのだ!」


 なんでも、江戸にいた頃に試合をしてみて大層楽しかったそうな。そんでその刺激が忘れられないと。

 えー。

 まあそこまで言うなら、例の警察の兄ちゃんに聞いてみたげるよ。確か警察って剣道とかやってたと思うし。


「恩に着る!」


 お礼はいいけど、武士ってそういう言葉軽々しく使っていいのか。





 そういうわけで、LINEで警官殿に尋ねてみました。が、生憎と「すいません。俺は剣道やったことないです」とのこと。

 たまたまお友達さん(いつぞやの煮物の件の時の人)も警官殿の家に遊びにきていたので、同じ質問をしてもらう。しかし答えは同じであった。

 あからさまにしょんぼりする武士だが、私としてはこれで良かったと思う。いくら馴染みの人とはいえ、武士の遊びに付き合わせるのは申し訳ないもんな。

 そう思っていたら……。


『……あ、でも、俺の兄さんは剣道やってましたよ』


 予想外の人物の名が上がった。


「警官殿の兄上か!? それは是非一度手合わせ願いたい!」


 そしてノリノリの武士である。

 ……しかし、警官殿のお兄さんか。警官殿でこれだ、その兄上となるとさぞかしムキムキであられるのではと予想される。もしやこれ、武士も負けてしまうのでは……。


『まあ高校の選択授業で履修してたってアレですけどね』


 アカーーーーーーーン!!!!

 高校の選択授業で剣道やったことある人と普段から竹刀ぶん回してる現役武士を一緒にしちゃいけねえよ! それはアカン、警官殿、ちょっとパスして……。


『うちの兄さんはオッケーって言ってます』


 取れちゃったアポ!!!!

 大丈夫!? ちゃんと対戦相手の詳細説明した!?

 こちとら武士よ!? 暗黒蝶乃舞武者流よ!?


「手合わせでござる、手合わせでござる」


 背後で鬱陶しく小躍りする武士を制しながら、警官殿とLINEを続ける。と、ここで彼から『あ』と不穏な一言が送られてきた。


『……すいません、兄から“防具はどこで借りるんだ”って連絡が来ました。大家さん、心当たりあります?』


 ……。


 あるわけ、ない。


「ぬうううううっ!」


 そうだよなー、防具が用意できなきゃ試合は難しいよなー。ごめんなー武士、また次の機会になー。


「ぬうううううううううんっ! ぬうぅっ!!」


 じたばたしてる。すげぇしてる。

 でも、警官殿のお兄さんがどんな人かは興味があるので、いつか出会いたい所存である。


「ぬうううううっ!!!!」


 防具か、機会があれば。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 警官殿の兄上にも無限の可能性を感じます٩(^‿^)۶ 流派の名前がサイコーです!! [一言] 武士さんの師匠さん、他にもいろいろ弟子をからかってそうな…わくわくします(((o(*゜▽゜*…
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